第13話 ベヒーモス

「なぁ、ベヒーモス。」

「なんや?」

ベヒーモスは楽しそうに返事をした。


「事故だったにしてもドワーフを傷つけたことは謝れよ。」

俺は当然のことをベヒーモスに投げかける。仮にもこいつはキングベヒーモスだ。その気になれば町の一つや二つは消滅させられるだけの力はある。素直に聞いてくれるのか。


「せやな…。ウチのせいで生活が苦しくなったドワーフも多いんやろ?」


素直だった!!


「そうですね。ミスリルがドワーフの財源だったことは間違いなく。このミスリル鉱山に謎の凶悪魔物が出現するってだけで取れなくなりましたからね。」

マールはいつも冷静に分析をする。

仕事のできる女って感じだ。見た目は童顔でぺったんこだけど。


《君はおっぱい星人だねぇ、ほんとに…。》

脳内少女はあきれている。


「ウチ謝るわ。町に行くわ。」

やけに素直だな。本当にキングなのか?

ってか、このまま町に出しちゃダメだろ。


「ちょっと待て!その姿で行ったらお前何されるかわからんぞ。」

「仮にもキングベヒーモスですからね。」

「そう、お前所謂ボスキャラだからな。」

俺たちは魔物が町に現れると何となくどうなるか知っている。

呼ぶってわかってたリヴァイアサンですらみんな身構えていたわけだし、いきなり攻撃されて全面戦争になる可能性も…。


「勝手なイメージで勝手にボスキャラ扱いするのやめてくれへんかぁ…。」

ベヒーモスは不満気に答える。

自分はただのどこにでもいる魔物であって、特別なボスではないと。


でも、

「こんなでかくて恐ろしく強い、こんな雑魚キャラいたら嫌だ。」

こんなのがその辺のフィールド上に現れるRPGはもはや運ゲーだろう。

見た目からしても間違いなくボス級だ。


「じゃあ姿変えるわ。」

はい!?

「そんなことできるのか?」

「ふっふっふ、ベヒーモスをなめたらあかんよ!」

え?

うそ!?



かわいい!!


「どやこの姿。どっからどう見ても人間やろ?」

「角としっぽはあるけど…。それ以外は人間だな。」

ベヒーモスの姿は10歳前後の人間の少女風になった。

角としっぽのついたコスプレ…?


気になることが…、

「お前って若いのか?」

「レディに年齢聞くなんて失礼な奴やな。ウチはまだ100年ぐらいしか生きてへん。ピッチピチや!」

若いの…?

「100年って若いのか?俺の7倍ぐらいだぞ?」


「ベヒーモスの寿命は700年ぐらいと言われています。キングベヒーモスになると調査は進んでいませんがおそらくそれ以上の寿命があるかと。」

《キングベヒーモスだとねぇ、特に何もなければ2000年生きた記録もあるよ。》

マールの知識は本当にすごい…。そして脳内少女…お前何者だ…?


「それは…若いな…。」

人ってもって100年だもんな。そんな中で争ったり先輩風吹かせたりゴミくずみたいな存在か。


「よし!若者たち、町へ行くで!」

急に風が吹いた感じがした。

それはベヒーモスは急に吹かし始めた先輩風だった。


………

……

--1時間前


「骨とるにはご飯丸呑みとかかな?」

俺が言うと、何それみたいな顔でマールに見られた。

「ご飯を丸呑みすると取れるんですか?」

「なんでもかまへん!やってみるわぁ。ごはん炊いてぇな。」

無茶言うな…。

「あ、おにぎりなら持っていますよ。これでいいですか?」

なんで持ってるんだよ!遠足か!!


「これ丸呑みにすればええんやな?」

「噛むなよ。」

ベヒーモスはおにぎりを丸呑みにした。


「どう?」

「・・・。」

「大丈夫ですか?」

「・・・。」

ベヒーモスは動かない


「とれたわぁ!スッキリや!」

そう言うとベヒーモスは火を吹いた。


「おおきになぁ!」

喜んでいるらしいが、火を吹きまくってる。


「おい!落ち着け!」

俺たちはなだめるしかない。

「あはは、ごめんなぁ。かんにんやで。」


しばらくは、歓喜の炎に包まれないようにしないと丸焦げだ。


……

………


ってな感じで今に至るわけだが…。

まぁ刺さってた骨取れてよかったよ。

何より戦闘がなくて良かった。


「なあウチを探しに来たってお前が勇者なん?」

ベヒーモスは唐突に質問してきた。


「うーん、ガラマーラではそう呼ぶ人もいたけど俺自身は特になんとも思ってはないかな。」

勇者と呼ばれて天狗になっていたが、勇者と名乗る事は危険がいっぱいだと俺だって学習している。


「見た目はアホそうやけど、ごっつ強いもんなぁ。」

ベヒーモスとは戦闘になっていないのになんで…だ?


「そのアホヅラでかなりの人を騙せているとは思うけど、ウチは騙せへんで!」

コイツ、容赦ない。


マールは…、笑いを堪えている…。


おいおい!


「アホヅラで悪かったな!」

俺のへそが曲がった。どう曲がるのかはよくわからないが曲がったものは曲がった。


勇者イコールイケメンの定義を作った奴でてこいやー!


《勇者の条件は強い。ただしイケメンに限る!》


うるせーー!





ヤカの町に戻った。

誰のところに行けばいいか分からなかったので、取り敢えず傷ついたドワーフのもとに向かった。




「…というわけで、ごめんなさいっ!」

ドワーフは何が何だかわからない、現状を理解出来ていない様子だ。


そりゃそうか、こんな幼女があんな大きな爪で切り裂くなんてできるとは思えないもんな。

こうなったら、よし、

「ちょっとそこで見ててもらえるか?」

俺はベヒーモスを外に連れ出し、元の姿に戻るように言った。


近くにいたドワーフたちも全員驚いている。

野次馬が増えてきた。


そりゃそうだろう。

目の前にキングベヒーモスが現れたんだから。


「おっちゃん、ほんまごめんなぁ。」


「あ、あぁ…。」


もういいだろう。野次馬も多くなりすぎていて収集が付かなくなるし、

「さっきの姿になってくれ!」


ベヒーモスは幼女に戻った。


「ってことだからもうミスリル鉱山の魔物はいないぞ。」


こうしてミスリル鉱山にも平和が戻った。




俺は、というと。

「おぉ勇者殿なんか買っていくかい?」

「勇者殿!新しい武器が出来たんだ使って宣伝してくれい!」

「勇者殿!!」

「勇者殿!女性のおっぱいが大きく見える防具を開発したんだもらってくれ!」

野次馬たちが多かったせいもあり、鉱山に巣食っていたキングベヒーモスを手懐けたと瞬く間に噂が広がった。


うん、悪い気はしない。

ただこの町は男社会のせいかちらほらセクハラ発言が飛び交う。

マールが乗り気でなかったのはそれだろうな。

旅人も女性を含んだパーティは見られないし、有名なんだろう。


《口に出さないだけで、》

それ以上言うな!わかってる!!



そんなこんなで俺たちはこのヤカの町でも勇者として認められた。





これならヘブンズリバーを越える船もきっと行けるだろう。



ってかこのベヒーモスいつまでくっついてくるんだ?


後書き

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