第12話 魔物探しinミスリル鉱山
ヤカの町から見えていた緩やかな傾斜の山。そこにミスリルの鉱山がある。
鉱山の入り口までトロッコ用の線路も併走しているが、登り坂のためそんなの押しながら歩く気は毛頭ない!
トロッコでなくとも町から簡単ではあるが道が整備されているのでそんな苦もなく辿り着いた。
入り口以外は普通の山だ。しかし、入口は明らかに人工的に固められている。
崩れないよう慎重に掘り進めていったのだろう。
「ここからはどんな魔物が現れるかわからない。気をつけて進もう。」
俺はマールに声をかけると、マールは黙って頷いた。
中に入ると涼しい。というより寒い。
この鉱山は夏でも冬でもだいたい8℃ぐらいを保っているらしい。元々この山は天然の冷蔵庫として使っていたらしい。そこにミスリルを見つけてしまい今の形になったのだとか。
中は複雑だ。所々道が枝分かれしている。
進んでは行き止まり。戻ってまた進んでは行き止まり。
ちなみに奥に進むに連れて外からの光は届かなくなる。火を灯しながら。特に何も呪文とかないけど、マールがどんどん火を灯していっている。
俺も真似てやってみたけど、まぁできない。
リヴァイアサンの時なんでできたのか…?
ってか魔物の魔の字すら出てこないじゃんか。
強い魔物がいる目的地はどこだよ。
「虱潰しに行くしかないよな。この鉱山広そうだな。」
「はい、この鉱山の横穴の総延長はわかっている限りで500キロメートルはあるそうです。伝説によれば世界の反対側の大陸に出ることもあるらしいですが、さすがにそれは非現実的ですね。」
まぁこの世界の存在そのものが非現実的なんだけどね。
…ってか、は?
「500キロ!?」
東京から京都までいける距離だぞ。俺たち参勤交代でもさせられてるのか。
***********
「…いつたどり着けるのか…。」
もう5時間は歩き続けた。
「そうですね、今日のところは一旦引き返しますか。」
マールにも疲れが見える。そりゃ、あれだけ魔法を使い続けていれば魔力も底を尽きるころか。
俺たちは戻ることにした。
今日は骨折り損か。
…ヴググゥヴェ
「ん?マールなんか言ったか?」
「いえ私は何も。」
明らかに風が共鳴した音ではない何かが聞こえた。
俺たちは耳を澄ます。
入り口の方だ。
魔物がいるかもしれない。
戦闘になるかもしれない。
普段なら恐怖を感じる展開だが、俺は足早になっていた。
やっとこの状況から解放される。そのことで頭がいっぱいだった。
「マール気を付けて進もう。不意打ちもあるかもしれない。」
彼女は黙ったまま頷いた。
緊張が走るとマールは無駄口をたたかなくなる。
いや、それはいつもか?
俺たちは時折後ろも気にしつつ来た道を引き返していく。
な、あれは…?
巨大な獣が表れた。
「ベヒーモス、それも特上級のサイズ。キングベヒーモスですね。」
ベヒーモスだと…?
何かすると隕石でもぶっ放してくるアレか…?
戦うしかないか。
俺たちは戦闘態勢に入った。
「待った!待った!!」
ん?
毎度のことながらテレパシーか?
いつもの脳内少女ではないな。
でも可愛らしい声が脳内に響いた。
どうやらマールにも聞こえているらしい。
「あぶない、あぶない。ウチは戦う気なんてこれっぽっちもないで。」
ベヒー…モス…?
「あんなぁ、喉に骨刺さってん。」
…は?
いや、コイツのこの見た目。
ドワーフを切りつけた爪はおそらくこれで間違いないだろう。
油断させて、ザクっとか。
「そんな手には乗らないぞ。ドワーフを襲ったのもお前だろう?」
「あれは事故やってん。喉に骨刺さってどうにかしてほしいやん。」
ベヒーモスは続ける。
「そんな時に人見つけたら助け求めるやん?」
まぁ緊急事態ならそうかもな。
「ドワーフ見つけたから後ろからちょっとって呼ぶ感じで肩をトントンしたんよ。」
まだまだ続ける。
「そしたらドワーフめっちゃ吹っ飛ぶん。ウチ、ビビっちゃって。」
なんか申し訳なさそうな表情…。これ本当に〝キング"か?
「ベヒーモスにやる感じでやったんがまずかったよなぁ。ウチ反省しとるし。だから君らに気づいたけどトントンしなかったんよ?」
こいつ悪い奴じゃないのか?
俺もマールもきょとんとしている。
「ドワーフ達は何かみんな出て行っちゃってん。ウチ骨取れないし。どうにか取ろうとするけど取れんの。」
…戦意喪失。
「なぁ、ウチに刺さってるこの骨取ってくれへん?」
しおらしいベヒーモスのお願いを聞き入れるか、それともやはりこれは騙しにかかってるのか。
マールは愛おしいものを見るような目で、
「私たちに任せて下さい。」
承諾するの早っ!!
まぁ、困ってるのは人だろうと魔物だろうと同じだよな。助けないと。
ただ、ベヒーモスの喉に刺さった骨ってどうやって取るんだ?
流石に手を突っ込む勇気はない
「明るいところで確認したいですが、外に連れ出すと騒ぎが大きくなりそうなのでここでやってみますね。カペラ様ちょっと照らしてもらっててもいいですか?」
俺はカンテラを渡された。
ベヒーモスはというと、上を向いて口を大きく開けて涙目で頑張っている。
「…あ、見えました。ちょっと腕を入れても届きそうにないですね…。」
ベヒーモスが巨体過ぎるのがいけないんだな。
「時間が経てばそのうち落ちるでしょ?」
俺がいうとベヒーモスは、
「それまでウチずっとこの気持ち悪い感じと一緒なん?それはいやや…。耐えられん…。無理や、死ぬー
!」
ただの我儘な駄々っ子だった。
「お前なぁ、仮にもキングなんだろ?」
「そんなん勝手にそう呼んでるだけやん!ウチ自分でキングなんて言わへんし、言ったこともないで。」
そこに威厳なんてこれっぽっちもなかった。
「わかった、わかった、取り敢えずどうすればいいか考えよう。」
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