第9話 上に立つ者


足止めされていたが、やっと浄水施設が完成したらしい。


ということで、俺たちは今その浄水施設にいるのだが…。




元々時間に余裕をもって行動するタイプの俺だが、マールは筋金入りだった。


………


……





「カペラ様、完成式典、そしてリヴァイアサンの召喚に参りましょう。」


「マール…開始はまだまだっしょ?早すぎない?」


今出たら予定より1時間以上前に着いてしまう。


移動手段は徒歩オンリー。電車が遅れるとかそういった事はないのであるが…。




「道中何が待ち構えているかわかりませんから、念には念を入れてですよ。」


おいおい、張り切ってるなぁ。




「それにカペラ様がいないといくら綺麗にしたと言っても下水を貯めこむだけしか出来ないですからね。今日のメインはリヴァイアサンの召喚、そして下水逆流の呪い(?)を解いてもらうことです。」




そうだな。この子には何を言っても効き目はないだろう。


「わかった。行こう。」





……


………




ってな感じで早く出てきたのだが。


まぁ、この臭気は半端ない。まだ魔導士も動き始めていないからとにかくヤバい。


超巨大な肥溜めにいる感じですよ…。




《大変だねー。こっちには臭いって来ないから良かったよぉー。しっかり見守ってるから頑張れぇ!》




いや、もうダメ………












完成式典とかだるい。


校長の話ですらまともに聞いたことのない俺がそれ以上にかたっ苦しいこんな話聞いてられるか。


あぁー、早く終わんねーかなぁー。早くリヴァイアサンを呼び出す俺のターンになれよ。


なんて、俺は考えていた。




空に暗雲が立ち込めて辺りの空気がガラッと変わった。


式典中の人々も空を眺めていた…




「おい、あれを見ろ!」


「なんだあれは?竜か?」


「…いや、あれはリヴァイアサンだ!」


人々は取り乱している。




そんなこと知ってか知らずか、


「カペラよ、お主に呼ばれて遥々来てやったぞ。」


リヴァイアサンが仰々しく表れた。




ってかリヴァイアサン、登場早くねー…?




《えー、だって君が早く来いって祈ってたじゃん。君が呼んだのに文句は違うんじゃない?》




あ・・・






まぁどうせ呼ぶんだし早くなってもいいかな。うん。


よし、コイツと仲良しってところを見せつけて俺の格を上げてやるか。


「わざわざサンキュー!リヴァイアサン!」


リヴァイアサンって空も飛べて水もいけて、さらに今陸に上がってるぞ。何でもありかよ。




「カペラが呼ぶから仕方なく来ただけだ。別に我は会いたかったとかそういうことはないからな。」




ぶんぶん♪




めっちゃ尻尾振ってるし…。ははは…。


尻尾を中心に辺りに強風が吹いた。


もう少し弱く振ってくれると助かるんだけどな。




「それでさ、おま…リヴァイアサンに頼みがあるんだけどさ、いいかな?」


「なんだ?我に頼みとな?この国を潰すとかそういうことなら容易いぞ。」


国を潰すとか最高の笑顔(表情見えないけど)で言うコイツまじでこえぇ。




「いやいやそうじゃなくて、今ここに下水を貯めてるんだけど、これを綺麗な水にするからそうしたら逆流やめてくんない?」


「カペラの頼みとあればなぁ。まぁでもまずは我の目で見て判断するとしよう。」




俺とリヴァイアサンのやり取りを口をあんぐりしながら皆見ている。


そうだろう、そうだろう。俺ってすごいだろう。崇めてもいいんだぞ。




「ってことだから王様、魔法頼むよ。」


「…っは、ああ、魔導士隊一斉に取り掛かれ。」


「は!」




あのやべぇ雰囲気醸し出していた王様まで仰天しているなんて気持ちいいな、これ。






下水ダムの色がみるみるうちに綺麗になっていく。それに伴いあたりの臭気も消えていった。


魔法ってすげぇ。これならいけるんじゃないか?




「ふむ、なかなかよいな。良しでは国王よ、これが綺麗な水というのであれば、まず其方が飲むがいい。」




リヴァイアサンは鬼畜だった…。




ラマム王は躊躇しているというより、脂汗がダクダク。


そりゃ、これは人間の尊厳にかかわる問題だよな。


ウンコ味のカレーかカレー味のウンコかみたいな究極の選択といっても過言ではないだろう。






「ん?どうした?飲めないのならそれなりの水という事を自分で証明しているようなもんだぞ?」


うっわー、リヴァイアサンは絶対敵に回したくねー。






魔導士や他の人たちも固唾を飲んで見守っている。


というより、内心俺じゃなくて良かったーってところか。




「飲まんのか?それならここまでだな。」


リヴァイアサンはどことなく楽しそうだ。






……


「お前もあれだろう。見ず知らずの他人に自分の家を糞尿で汚されたら嫌だろ?」


……


リヴァイアサンが言っていたセリフを思い出した。


コイツのやってる事はかなりの鬼畜だが、実は正しいのではないか?




まぁ鬼畜だけどね…。








そんなこんな考えているうちにラマム王は意を決したらしく、


ぐびっといった。




「まずーい、もう一杯!」


そして、周囲の汚いものを見る目…ははは。






「ふむ、良いだろう。飲まんでも見てわかるレベルだったが、上に立つ者がその証明をせねば誰も信じてくれないからな。口だけなら誰でも出来る。本物は行動に移せるのだ。」


やっぱりただの鬼畜生だった。






「ちょっと待て。っぽくするから言い直そう。」


リヴァイアサンが言ってテイク2だ。




「さあ願いをいえどんな願いもひとつだけかなえてやろう… 」


なんだこの名言。知ってるぞ。


「下水の逆流をやめてくれー!」


俺は神龍…いやリヴァイアサンに頼んだ。




「願いはかなえてやった。ではさらばだ。」




リヴァイアサンは空高く舞い上がり見えなくなった。


これでこの街も元通りか…。








ちなみに、ラマム王はというと、




ひたすらうがいをしている…。






体張ったもんなぁ。








街に戻ると、強い魔力を感じると魔導士たちが慌て始めた。


さぁ、勇者の首を狙う誰かの登場か?








目の前に現れたのは、






リヴァイアサンだった。






「おい!帰ったんじゃないのかよ!」


「ちょっとカペラに言い忘れてた事があっての。お前のためならまた来てやってもいいんだぞ。」




ぶんぶん♪






そう言うとまたすぐ空高く、そして見えなくなった。






デレ期突入か…。


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