第8話 勇者の噂
要塞都市ガラマーラは世界から人が集まってくる大都市だ。
しかし、ここ数日外からの人がめっぽう減った。
理由は簡単だ。
とにかく臭い。
今にも鼻がもげそうだ。
俺がクリリンならどれだけ幸せな事か。
はっ!?いや、ウソ嘘…
ふと前世?の事を思い出してしまった。何か思ったら都合よく切り取られこの世界に来てしまったのだから。クリリンみたいにとか思ったらヤバい事が起きそうだ。
魔導士はすぐにでも動き出せそうだが、まずは下水を溜め込むダムのような施設が必要らしい。
流れている水に魔法を掛けるのは至難の業みたいだ。
あれだけの魔力を解き放てる俺なら出来るんじゃないか?
まぁ臭い最前線に飛び込みたくないから言わないが。
今回も街を見下ろせる特上の宿を取ってもらった。
しかも貸切だ。
身体を包み込むように沈み込むベッド、価値はよくわからないが見た目からして高そうなアンティークな机、座り心地抜群のソファー。
本来ならヒャッハーと喜び舞い上がりたい気分になるような鄙びた宿だ。
本来ならね。
風呂もトイレも下水に流さないため仮設のものだ。
換気も凄いがそれでも室内まで漂うこの臭気。
こんな宿に誰が好き好んで泊まるのか。
浄水施設が完成するまで足止めを食らっていて、そう、とにかくもう暇なんです…。
トントン。ドアをノックした。
「カペラ様、よろしいですか?」
これは、マールの声だ。
マールは俺の顔を見るなり、
「カペラ様、どうされました?」
マールから訪ねてきたんじゃないか!
「どうかって?」
「いや、その、鼻に…」
「・・・あ、詰めっぱなしだったわ…」
俺は鼻に詰めていたティッシュを抜こうと、
「いえ、全然そのままで構いません。」
そう言うとマールは続けた。
「ヤリースポートの件ですが。」
ヤリースポートって…ついに賠償請求か…?
「リヴァイアサンを退治した勇者がいるとの噂が立っておりまして、」
俺勇者?俺の鼻がどんどんピノキオになっていく!
嘘をついてないのに伸びる伸びる。
あ、サインの練習もしなくちゃいけないかな。
「そんな、勇者だなんて。俺はやる事をやっただけだ。」
「いえ、勇者の噂は少々面倒な事になりやすいのです。」
へっ??
「…魔物が勇者を狙ってくるとか?」
俺はない頭でありそうな事を捻り出した。
「いえ。」
瞬殺だった。
「厄介なのは魔物ではなく人間です。」
はぃ・・・!?
にんげん・・・!?
「スライムなど考えることができない種族は例外ですが、大抵の魔物は自分より強い、明らかな能力差があるとわかっていれば手は出してきません。」
「魔物には相手の力がわかるっていうことか?」
「はい。まだ詳しく研究しているところですが、おそらく魔力の感知精度が人間と比べて格段に上なのかと。」
歴代勇者の魔力は高いだろうな。まぁ勝手なイメージだけど。
「人間は知性はあるのですが、それ以上に欲望の塊です。」
マールは俺の目を見て話を続ける。
《真面目な話なのに君の鼻にティッシュが詰まっているせいでギャグシーンにしか見えない…ウケる!》
忘れてたわ!…かっこわるっ。
「勇者を倒せば自分が勇者になれる、なんて浅はかで邪な人が多いのです。勇者になってチヤホヤされたい。英雄視されたい。などと考える人は五万といます。」
あはははは、耳が痛いぜ…。
「それと、歴史的に見ると今後はニセ勇者も増えてくると考えられます。」
パチモン…今風に言うならなりすましか?
そんなのまで出るのは面倒…なのか?
「結局はどちらのタイプも現在の勇者の存在が邪魔になります。結果、殺しに来ると考えていいと思います。」
本格的にやべぇモード突入ですか。
「まぁ、俺なら大丈夫だよ。」
「はい、私もそう思っておりますが、もしもの時、不意打ちなど卑怯な人も多いと考えられます。
カペラ様!決して一人で行動しないで下さいね。どんなに強い人間でもちょっとした事でもすぐ死んでしまうんですから…」
マールの目に何か光るものが見えた気がした。
「そういう事なので今日から私もこの部屋に泊まります。」
・・・って、えええええぇぇぇぇええ!!
女の子とお泊まりですとなー!
スマホもテレビもないから昨夜やった事は、マールに抱きつかれた感触を思い出して、溜まってたものの自己処理だった。
しかーし、今日からは、
…
……
「お姉さんが教えてあ・げ・る♡」
むふふふふ、むっひょーー!!!
……
…
《何を想像してるんだよ!おーい!》
さっきまで伸びていた鼻は伸びる場所を変えた。
自分の家じゃないし、ベッドの下とかにエロ本も隠していないし何か探されても問題なし。
最高の環境だ!
生きていて良かった。神さまありがとう!
ってかあっちの俺は死んだのか?
それとも生きてるのか?
まぁ今はこの時を楽しむしかない。あっちのことなんか知らん!
ベッド脇に置いてあるゴミ箱からは海鮮系の香りが漂っていた。
しかし、俺の鼻はティッシュを詰め人工クリリンになっていたため目視するまで存在を感じていなかった。
マールは気づいていたのか?それだと非常に恥ずかしい…。でも聞くことはできない。
俺だけなんとなく気まずい…。
《よっ!イカ男!にくいねー!》
脳内少女よ、少し黙っていてくれな…イカ…。
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