第4話 傘の花

「なぁ、マール。魔法見せてくんないか?」


俺たちは王の計らいでガラマーラ特上の宿を取ってもらった。

いや、本当は旅立とうと思ったんだよ。それが突然の大雨に打たれてしまってね。どこの世界も自然の力には勝てないのだよ。


「カペラ様、私の力をお試しになろうと…?」

マールは信用されてないことに不服な感じなのだろう。怪訝そうな顔つきになった。


「いやいや、そういうわけじゃなくて。俺、まともな魔法って見たことないんだ。武器とかに魔力を注入するのは何度かあるけど。」

「謙遜なさらないでください。カペラ様の魔力を前にしては私の魔法など虫ケラ同然です。

とてもこのような場でお見せできるものではございません。」


魔法が見たい。ただの興味本位なのだが…。

それにしても俺の力ってどんだけ強く思われてんの?これ絶対強敵相手に前に出されての死亡フラグ立ってんじゃん…。


明日晴れたら出発しよう。




ふと窓から街を見下ろすと傘の花が咲いている。

それも満開だ。


「なぁ、マール。今日は街で何かあるのか?雨なのに人すごいんだけど。」

「それは花咲市でございます。雨の日が続くと街の経済がストップしてしまっていたのですが、

現国王のラマム様がそれでは国力が衰えると、雨の日には物資にかかる税を安くしたのでございます。」

「あぁ、だから人が溢れかえっているわけね。」

「はい。ただの安売りと違い税率が下げられるだけなので行商まで雨を狙って来るので自然と市になっております。

お城から見たらまるで傘のお花が満開だから花咲市と呼ばれるようになり定着しております。」

国王は自分の身を削って国の力を増しているのか。


要塞都市と呼ばれるだけあるな。やるな国王。


「でも商人の中には、晴れの日に売ったものを雨の日に売ったとか嘘つく人もいるんじゃない?」

ティーンエイジャーでも思いつきそうな悪だくみを聞いた。


「もちろん当初は多かったと聞いています。

しかし…ラマム様は嘘がわかり次第処刑にしております。

もともと国民に不利益なことない市でございますので、皆その方針に素直に従っているということでございます。」


あぁ、確かに嘘をつかなければ何も問題ないからな。

それにしてもあの王はどうやって嘘を見抜くんだ?


「せっかくなので道具を揃えに街へ出てみては如何でしょう。」

マールは固い言葉を崩そうとはしない。

「あぁ、そうしよう。マールも一緒に。案内してくれ。」


「私もですか?」

今までにない感じで目を丸くしている。


「わかりました。お供させて頂きます。」


《こんなタイミングでデート誘うとか、君なかなかのプレイボーイだねー!》


たしかに昔の俺なら面倒とか何かと理由をつけて引きこもっていたんだろうな。

プレイボーイか。ふふっ…。




外に出るなりマールが魔法を使った。

何も起きていない。そう思った。

しかし、俺とマールの頭上に雨が当たらない。こんなのドラクエでもFFでも見たことねー。

いや、そうだよな。何も魔法って戦闘専用じゃないもんな。生活の一部だな。でも…


「マール!せっかくだけどその魔法なしにして傘差して行こうよ。その方が花咲市っぽいじゃん!」

俺は宿に置いてあった傘を2本取って、片方をマールに渡した。

「いこっ!」


マールはコクンと頷いた。





「武器と防具、それにアイテムも揃えとかないとな。」

スケルトンに身ぐるみ剝がされたから尚更…。本当服まで奪われなくてよかった。

「そうですね、街ではポーションしか回復アイテムは売っていないのですが、この市には行商も参加しているので更にハイレベルなアイテムも揃うことはありますよ。」

「ポーションかぁ。あまり買ったことないな。」

RPGでの話だけど。


「カペラ様はまだ若いから必要ないでしょうね。」

傘で顔が若干隠れているがわかる。マールが笑みが見える。

この子笑うとなかなか可愛い。おっぱいぺったんこだけど。

《男ってすぐ胸ばかり見るよねー。あーやだやだ。》

脳内少女の声は何も聞こえませーん。


「ポーションに年齢関係あるの?」

「はい、ポーションは飲むとなんとなく元気になれます。徹夜で作業する人などにはとても売れているみたいですね。」

それって、翼を授けるとかファイト一発とかその類のものか。HP回復とかじゃねーんかい!

それじゃ、年齢めっちゃ関係あるわ。まだまだ必要ないな。


《ねーねー、HPって何?》


あ、やっぱりそういう概念はこの世界にないんだ。ゲームではなくあくまでリアルなんだな。



日は雲で見えないが、あたり一面天に向かい色とりどりの花が咲く

そんな花畑にたくさん並んだ店、

必要なものを買いアイテムを揃えていった。


金は国王がくれたのでまだまだたんまりとある。






「マール、今日は付き合ってくれてサンキューな!」

そう言って俺はマールに小さな紙袋を渡した。


「…これは…?」

「あぁ、それは今日のお礼。」

マールはびっくりしたようにキョロキョロしながら俺を見た。

俺は黙って頷くと、紙袋を開けた。


「……ドレアメットの髪飾り…!」

ああ、これそんな名前の花だったのか。植生全然違うもんな。


「マールに似合いそうだなって思ってさ。」

「いいんですか?本当に?」

俺は笑顔で頷いた。

「カペラ様…、ありがとうございます!」


俺は、この子の心からの笑顔を初めて見た気がした。



さっきまでの雨雲が切れて、空には夕焼けが広がっていた。

明日は晴れそうだ。




《髪飾りなんてあげちゃってさ、しかもキザな感じに、ふぅーん》


お前は少し黙っとけよ。



《キザ!キザ!キザ!!キザ男!!!

でもちょっとだけ………やっぱキザ!》



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