第2話 初陣

「勇者カペラはレベルが1上がった。かっこよさが2上がった。」

こういう時にいつもの脳内少女が言ってくれればいいのに。誰も言ってくれないから自分で声に出した。


虚しさが3上がった。


村の外には強い魔物がウジャウジャいるから15歳まで村を出てはいけないと言われていたが、現れる魔物はほとんどが下等のスライムばかり。


前の身体の持ち主はなんでこんな雑魚らにボコられたのか。

本当にチート級になったんか。それって本気を出されたら一巻の終わりなのでは?



まだ、テポ村を出てから3時間ぐらいしか経っていないが、正直なところスライム退治にも飽きてきた。

剣を一振りで倒せる。なんならサッカーボールを蹴るような感じでも場合によっては一撃。

それを繰り返すだけの単純作業。しかも報酬はなし。

経験値とかレベルとかっていう概念はあるのだろうか。


何が楽しくてこんな事やっているのか。考えれば考えるほど虚しい。

せめてもっと強い、骨のあるやつが現れてくれれば少しは…。


「おい!そこのニンゲン!持っているアイテムを全て置いて立ち去るか、ここで死ぬかどちらか選べ!」

声が聞こえた。その声に振り向くと、骨だ。


正確には人型の骨の魔物スケルトンが振り向いた先にいた。


「断る、と言ったら?」

「では、シネ」


言うなりスケルトンは右手に構えた剣を振り上げてきた。

俺はすかさず攻撃をかわし、反撃に出た。


前々から思ってはいたが、この身体の戦闘能力は高え。瞬時にかわせるか、普通。


剣と剣がぶつかる、金属音が鳴り響く。と同時にスケルトンが崩れる。


え?


どうやら剣からの衝撃に奴の身体が耐えられなかったらしい。まぁ、骨だけで身体を支える無茶苦茶な構造してるからな。


初めての戦闘らしい戦闘かと思ったのも束の間、やはり呆気なく終わった。

つまらん。とりあえず先を急ごう。


「ゔっ…!?」


背中に激痛が走った。


さっきのスケルトンが後ろから斬りつけてきた。


え?


倒したはずでは?

っていうかそんなの反則じゃ?


ああ、そうか。魔物に戦闘のルールなんてないよな…。




意識が朦朧としてくる。




ああ俺死ぬのか…。


………

……

……

………



「ぅ…ぅん…」


「お、気が付いたか?」


目を少し上に向けると如何にも回復系魔法を使いますと言ったローブを纏った男がいた。


「スケルトンに出会ったら成仏させるか焼き尽くすかしないと、普通にやられるぞ。ってか常識だろ。」

「えっ、そうなんすか…?」


そんなこといつもの脳内少女は何も言ってなかったぞ。戦闘は対象外なのかな。



《ん?あ!?ごめんごめん!あまりに常識過ぎて言い忘れてたよ。君の世界では常識じゃないんだね!》


な・ん・だ・と・・


ふざけるな。

俺死ぬとこだったぞ。


この脳内少女は俺ではない。前の持ち主の記憶か何かか?ただ、この声は若い。小学生ぐらいだろう。



旅を開始して数時間のペーペー且つ、ど田舎育ちで情報も殆どなかったから仕方ない。

いや、元旅人は多いから聞けばよかったのかもしれないが、そんな面倒な事はしたこともないからな。


なんにもない村から出ることしか考えていなかった。

Wi-Fiも飛んでいない、そもそも電気すらないし。

せめて何か娯楽がなけりゃやってられねぇ。そんな気持ちで一年間過ごしていたツケが早速現れた形か。



どうやらスケルトン系は衝撃を与えると崩れはするがすぐに元に戻る。しかもアンデッド系はダメージの蓄積は一切ないらしく、魔法(もしくはそれと同等のアイテム)を使用しなければいけないとのことだった。



倒していないのに背を向け隙だらけだった俺は助けられなければ間違いなく死んでいたらしい。

こんな下等な魔物にやられるとか、RPG初心者かよ。




「ところで、俺はテポ村に行く途中なんだけど…」

「あ、それ俺の村っすよ!」

僧侶(っぽい奴)が言い終わる前に元気よく答えてしまった。


「え…?テポ村出身なのになんでスケルトンなんかに…?」


は?どういうこと?

俺はよくわからず黙ったままだ。


「ま、ちょうどいいや、村まで案内してくれないか?」

白い歯をのぞかせながら男は言った。


「あ、いやー、あのー、案内したいのは山々なんですが…」


セレナにカッコつけて村を出たその日に帰るのは非常にカッコ悪い…。

それならまだ旅の途中で死んだ方がマシだ。


何かと有る事無い事適当に理由を作りどうにか案内をしないという恩を返さないという人道から外れた行動に成功した。


いや、でもマジで良かった。





あ、名前聞き忘れたな。

男には興味ないし、ま、いっか。


********************

うーん、魔法かぁ。


「メラ!」

しかしMPが足りない。


この身体になる前によく使っていた魔法を声に出してみるも何も起きない。

ってか、そもそもこのカペラ=トラクトは魔法が使えるのか?



俺はこっちに来てから1年間、ほとんど何も訓練を積んでいない。

積んでいないから詰んだんだけど…。


まさか雑魚を倒すのにも魔法とか必要なんて知らないしさ。


にしてもだ、この身体のステータスは絶対高い。

これは、マジで勇者も夢でもないのではないか?


まあ、魔法が使えればの話か。スケルトンすら倒せなかったしな。

それだと俺の勇者(として認められ富と名声を得てちやほやされる)への道は既に詰んでいるのか?


そんなことあってたまるか!

俺が使えないならパーティメンバーがどうにかしてくれるはずだ。

そしてドラゴンを退治してハーレム暮らしだぁー!

キレイなオネエチャンたちとムフフフ…


なんて事を考えながら歩いていると、遂に鬱蒼としていたこのテポの森の終わりから西日が差し込んで来るのが見えてきた。



やっと森が終わった。

この先は、、、


《この森を抜けるとガラム平原だよ!ガラム平原には要塞都市ガラマーラがあるから、そこでショッピングなんてどうかな?》


ショッピングは置いといて、要塞都市ガラマーラか。行くしかないな。


ただ今日は厳しそうだから、まずは安全に寝れる場所を確保しないとな。

またスケルトンに出くわしたら今度こそゲームオーバーだ。

死んでしまうとは情けないとか言って生き返らせてくれるわけ無さそうだし、気をつけないとな。



明日にはガラマーラに着くぞ。





《スケルトンに負けてなければとっくに着いてたのにね。》



おいそこ!傷をえぐるな!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る