精霊の勘違いで異世界に転生してしまい、強大な魔力を手に入れていた俺は此処にいます。

柊れい

第1話 旅立ち


「ごめんなさい。他に好きな人がいるの…。」




え、何を言われているのか意味不明なんですけど。


他に好きな人って俺たちずっと楽しく過ごしてたじゃん。そんな思わせぶりあり?ずっと一緒にいたいねとかアレ何だったの?


これ、契約違反もいいとこじゃね?


ってか俺何がダメだったの?




「だから、その、ごめんなさい。」




そう言うなり彼女は走り去ってしまった。




俺は何も言えなかった。


いや、正確には突然の出来事過ぎて声の出し方を忘れてしまっていた。


ただただ呆然と立ち尽くすだけ。




わかっている事は彼女に惚れた事に間違いはなかった。


いや、そう思いたいだけだ。








いつもの景色、いつもの帰り道。それなのに俺以外はモノクロに映る。


心にぽっかりと穴が空くってこう言う事か。








今日の事は全部悪い夢だったらいいのに。




そんな事をぶつぶつ思いながら不貞寝した。










《あなたのその願い、叶えてあげるよ。》




なんだ、今の女の声?女ってより少女か?








ああ、夢か。






…………


………


……





俺は目を覚ました。




ここは…どこだ…?




「おぉーい!こっちにいたぞー!!」




騒がしい。




「大丈夫か!?」


「カペラもう大丈夫だぞ。」


「息はあるぞ!早く回復魔法を!!」




うるさい。


声を上げた。


「ゔゔぅ…」


しかし、声にならない声しか出ない。


そして意識が遠のいていった。






「目覚めたか。」


このフカフカな感じ。布団の上か。


身体も動くし、痛みもない。


「あぁ…」


「何がああだ、この大馬鹿者が!!!」


急に怒声が鳴り響くと同時に俺の左頬に激痛が走る。


「カイさん!気持ちはわかるけど今は抑えて!」


カイさん?誰だ?


《その人はカイ=トラクト。カペラ=トラクト、つまりあなたのお父さんだよ。》


また寝る前に聞こえた声がした。音ではなくテレパシーの一種かなにか。


脳に直接話しかけられている感じだ。




というより、今はそれどころではない。目覚めてすぐ殴られるってなんつー夢だよ。


とか考えている内にまた俺は気を失った。










《これは夢じゃないよ。現実なんだよ。》






*********








『求む勇者 洞窟に巣食うドラゴンを退治した者には褒美を与えん 』








俺が物心ついた頃からこの看板はずっとある。


俺は明日で15歳になる。ただ、まともな記憶としてあるのは1年ぐらいだが。


この世界での記憶が1年ぐらいってだけで、その前の記憶も勿論持っている。




何故かこの世界に精神だけ飛ばされて、このカペラ=トラクトの肉体に俺の精神がくっついた…らしい。






ここは小さな田舎の村だ。


こんな田舎の生活から抜け出したいのは誰もが通る道だろう。そこに勇者募集がかかれば一攫千金さらに英雄の称号までついてくる。




こんなオイシイ話を無視できる若者がいるだろうか。


何せここには娯楽はないのだから。




ここテポ村の青年のほとんどは勇者になるため(というのは建前だが)男女問わずほぼ村を出るとのことだ。




しかも森の中に村があるためか、外から新しい人は全くと言っていいほどいない。


こんな限界集落一歩手前まできているのによく村として存続できるものだ。




まぁ途中で勇者になること(外での暮らしもか?)を挫折して村に戻る者もいるので村として存続出来ているのか。








俺、カペラ=トラクトも明日ついに村を出る。今日は旅立ち前の壮行会、という名の宴だ。


と言っていもまだ酒が飲める年齢ではないのでノンアルコールだが。




「みんな、俺勇者になってくるよ!」


「カペラ、頑張ってこいよ!」


「辛くなったらすぐ帰ってくるんだよ…。」


みんなが口々に檄を飛ばしてくれた。




さあ、明日は早い。少ない友たちと昔話に花を咲かせたいところだがこれくらいにして早く寝よう。


こいつらは俺とずっと一緒にいたのかもしれないけれど、何となく知ってはいても俺の記憶では1年だし。




そんなん寂しくもなんともないわな。






俺は早めに床についた。




宴は明け方まで続いていたらしいが、俺は爆睡していた。


どこでも寝られる。主に授業中に、発揮していた俺の特殊能力の一つだ。










空は旅立ちにもってこいの曇天模様…。


こういう時って晴れ渡るものじゃないんかい!


まぁ、いいや。行こう。








「ゆうべはお楽しみでしたね。」




ん?どこかで聞いたことあるようなセリフだ。振り向くと、えーっと確かコイツは…




《幼馴染みのセレナ=ハーヴィだよ、いい加減覚えなよ!》




「そうだそうだ!ありがとう。」


つい声に出して礼を言ってしまった。


これ、絶対変な奴って思われたわ。




幼馴染みのセレナが旅立つ直前にわざわざ見送りに来たらしい。っていっても隣の家だけどな!


こいつは見た目は可憐な美少女だ。


あっちの世界にいれば何もしなくても間違いなくヒエラルキーの上位に入りチヤホヤされるタイプだ。


ただ、性格がちょっと…。


勿体ない、玉に瑕だ。




ちなみに何故幼馴染みとか知っているかは、


俺には声が聞こえるからだ。


カペラ=トラクトとして生活していくに不都合なことがあると、だいたい今みたいに大体頭に声が聞こえて助けてくれるから中身が別人になっているとは思われていない。






というより、俺が別人格だって誰も信じてくれなかったし。








「わけわからない事言わないでいいから。じゃあ行ってくる。」


「私もあと半年で誕生日だから、そうしたら私も村を出るよ。だから、それまで…、ゼッテー死ぬなよ。」


なんて言いながら頭を小突いてきた。




テポ村の掟で15歳になるまで旅は許されていない。


村は結界だかで守られていて魔物は入ってこないらしい。


しかし、外には凶暴な魔物がウジャウジャと。




しかもだ、魔物は15歳未満相手だとチート級の強さになるらしい。


だから俺になる前のカペラは死にかけた。






魔物のくせに何故年齢がはっきりわかるかは謎だが、相手が弱者と見るなり魔王クラスの力を発揮できるんだと。




弱いものにはめっぽう強い中間管理職みたいな感じなのかな。










「ばーろー!死ぬか。」


もちろん、死ぬ気なんかない。と言う代わりに振り向かずに腰の剣を抜き、天に突き上げた。


そして後ろを振り返る事なく森の中へ進んでいく。








男はカッコつけてなんぼだ。


振り返ってはいけない。そう、決して振り返ってはいけないんだ。










《かっこよくは…ないかな。君はちょっと厨二病拗らせすぎだよ。》






黙れ脳内。


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