第25話 好きみたいだった。終わり。

周りが暗闇の一個手前ぐらいの明るさになった。気温は、昼間よりも下がり長袖が役割を果たし始めた。風が吹くに当たって砕けているのがわかる。バイクに乗るとこの感覚が癖になってくる。要は、バイクに乗って走るのが楽しいのだ。

バイクで帰る途中運転しながら今日一日を振り返った。

今までの人生の中で一番思い出に残る日になったのは間違い無いだろう。ツーリングがこんなに楽しいなんて思わなかった。

朝早くコンビニを出発して俺たちは、江田島に向かった。そして、北極姫の先導で各休憩所や絶景スポットに訪れた。天気は晴天だったので絶景スポットは、どこも透き通った空気が辺り一面に広がっていた。深呼吸をすると肺が喜んでいるのが分かる。そして、絶景には目が喜んでいる。これが、自然の絶景が売りの観光スポットに人が来る理由だと思った。目の保養、肺の保養をしに年寄りは、こんなところに来ているのだろうな。

そして、北極姫はその絶景を見て「見て!見て!あの岩じゃがりこ見たいなすごい形してない!?」とはしゃいでいた。こんなふうに友達とどこかに遊びにいくのは、初めてなのだと思った。

だけど、バイクに乗ると北極姫の雰囲気は景色を見てはしゃいでいる時と打って変わって豹変する。後ろから見ていて本当に安心する背中だ。

江田島についてからは、島の中のカフェで休憩したり沿岸部をバイクで走りながら、潮風を浴びながら楽しんだ。途中すれ違う別のバイク乗りに手で合図を送ったりして少しだけだけど交流を他の人と深めた。

そ手を上げると、手を上げて返してくれるのがとても嬉しい。

北極姫とのツーリングは、とても楽しかった。この世界に入れてくれて本当に感謝だ。

何もなかった。俺には何もなかった。でも今は、このバイクとバイクが好きな友達がいる。少しだけ変だが面白くて可愛いやつだ。

人生を棒に振りたく無いと思っていた。そのためには、何ヲッすればいいかと悩んでいたが行動するとなると怖かった。でもバイクは、俺にその腑抜けた考えを高らかなエンジン音を脳内に響かせて目を醒めさせてくれた。まるで、バイクが「悩みなら動いてから決めればいい」と言ってくれてるみたいだ。

北極姫の笑い声も変な不安をかき消してくれる。

「幸せな人生を送る方法を教えてほしい?」と聞かれたら俺はこう答えるだろう。

「バイクに乗れ」と言うだろう。バカみたいな回答だと思うだろうがこれが答えだ。

人生一つや二つバカなことをしない方が一番バカみたいだ。

その点、バイクはインスタントにバカになれる。最高の遊びだ。

そんなことを考えながら運転をしていた。

北極姫の背中を追いかけるだけでなく今度は、自分の背中を見て走ってもらえるような男になろうと思った。照れ隠しを無くすと俺は、北極姫のことが好きみたいだった。次の休憩所で告白をした。

「好きです。付き合ってください」とストレートな言葉をぶつけた。

「はい。でも約束してほしいの。付き合うなら、あなたのそばにいる権利を私にください」

「はい」としか言えなかった。思ったことを何か言えばよかったのか、どこから言えば良かったのか分からなかったけど、でもこれでいいとも思えた。なんだか、考えていた自分がバカみたいだ。

でも、バカにしかできないことは、二つある。一つは、一つのことを愛すること。恋愛なんて所詮勘違いだ。互いの幻想を追いかけるだけで最後は、必ず分かれ道になっている悲しい道に気づかない人が多い。脳の錯覚だと馬鹿にしてくる人もいるが、その錯覚が楽しいのだ。悲しい道だとしても途中に出会うものは、宝物になる。それなら、馬鹿にされてる方がいいだろ。

もう一つは、バイクに乗ることだ。理屈なしで楽しいことはバカみたいに楽しい。事故して死ぬリスクを背負って走るスリルは、馬鹿にしか味わえない人生の嗜好品だ。そして、彼女を後ろに乗せて走るとその嗜好品は、病みつきになる。

それから俺たちは、大学生活を共に春夏秋冬を過ごした。そして、その中で幸せは、誰かのそばにいれることだと知った。その幸せも月日を重ねるごとに病みつきなる、たまに苦くて甘い幸福の味になった。

こんなに甘ったるい言葉を吐くとブラックコーヒーが好きな彼女に嫌われるかもしれない。でも言いたくなる。つまり、彼女が好きってことだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

トラベル・ラビット 黒バス @sirokuro2252

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ