第24話 コーヒーの神様

俺は、コンビニ野中に歩いて入った。そして、すぐに雑誌コーナーを横切り奥の方のドリンクのコーナーに入っていった。そうしたら、『あら』と小さく驚いた声が聞こえた。

目の前を見ると、缶コーヒーを手に取り、口が小さく開いた九能一花がそこにいた。

「おはよう」といつもよりも少しテンションが低い感じで言った。

「お、おはよう」と向こうはこんな状況に慣れていないのか、少し緊張気味で挨拶を返してくれた。

「コーヒー俺も買おうかな」

「眠くなったらダメだから一本ぐらい買った方がいいんじゃないの。百円で眠気回避できて、安心してツーリングできるなら安いでしょ」

「うん、そうだな」と言いながら北極姫の目の前にある缶コーヒーを一本手に取った。ちなみに俺は、まだ微糖までしか飲めない。

その後、軽くおにぎりやサンドイッチといった軽食を買ってコンビニの外に出た。そして、お互いのバイクのシートを机の代わりに使って軽食を立ちながら食べた。

「あなた、微糖しか飲めないの?」

「うん、だってブラック苦いじゃん」

「舌がお子ちゃまね」

「ウルセェ、コーヒーマウントとるんじゃねぇ。俺は、微糖でいいんだよ」と微糖の缶コーヒーをぐいっと飲んだ後に言った。

「ブラックもなかなか美味しいと思うんだけどね。サンドイッチとよく合うわよ」

「あと、四十年後ぐらい経ったら飲むかな」

「クソジジイね。その時には、舌が死んでそうだわ」

「舌が死んでないと、あんな物飲めないよ」

「コーヒーの神様に怒られるわよ」

「誰だよそれ?」

「コロンビアのコーヒー農家」

「いきなり現実的!」

「きっと農家だから貧困層よ」

「神様ならせめて良い生活しててくれ」

「それが資本主義社会よ」

「なんだ、この会話くだらね」

「それを言ったらおしまいよ」

こんな感じのたわいも無い話をしながら、コーヒーでお互い眠気を覚まして、軽食で腹を満たした。

朝玄関を出た時よりも体感で気温が上がった気がする。日が登って雲の隙間から太陽の光が綺麗に街に降りかかっている。このまま、気温が上がれば昼には、ちょうどいい気温になるだろう。今日は、絶好のツーリング日和になりそうだ。

「さてと行きますか」

「そうね。早いところ出発しましょう」

お互いの食べた物のゴミをもらったプラスチックの袋にまとめて入れて、少しコンパクトにしてからコンビニの入り口付近にあるゴミ箱にゴミを捨てた。これがコンビニの良いところだ。

ゴミを捨てた後、バイクの方に戻り出発の準備をし始めた。緊張しているのか手汗が普段より若干多めなぐらいで、高校の定期テストのシャーペンを持つ手ぐらいジトジトしている。

北極姫にバレないように、履いているジーンズで滲んだ手を軽く拭いた。軽く塩味がジーンズに着いただろう。

「私が先に行くから、あなたは後ろからついて来てね。あんまりスピード出さないから大丈夫よ」

相変わらず、頼もしく優しい言葉をかけてくれる女の子だ。この小さな細い背中について行ったらどこまでもいけるかな。なんて女々しいことを考えるのは辞めよう。自分は、つくづく情けなくなってしまうから。

「頼むよ」と何も内容に返事をした。

ヘルメットを被り、手袋をつけて準備を完了させた。そして、ヘルメット越しでも目と目で合図を取り、エンジンを始動させていつでも発進できるようにした。

北極姫が手を握り親指を立てグッドサインをした。こいつは、なんだか楽しそうだな。

俺も余計な事は考えないでいいや。今日のこの一日を楽しむことにした。

そう思ったらエンジン音が良く聞こえ始めた。

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