第23話 つながり

「ガチャン」と家の扉が閉まる音が玄関まで道に響いた。時刻は、午前5時45分で朝焼けの空は、まだ夜が明けてない暗い青い色の染まっている西の空と紅色に輝きながら染まっている東の空が絵の具じゃ表現できないような素敵なコントラストを生み出している。でも、この景色はあと少しで消えてしまう。だから、私は、この景色を少しの間でも目に焼き付けておこうと空をしばらく眺めていた。

朝の空気は、透き通るように明るく綺麗な色をしていて、無味なのに何故か美味しいと感じてしまう。まるで、波紋のないプールみたいに透き通っている。普段こんな早く起きることはないので、今日の内にめいいっぱい味わっておこうと思った。そう思い深呼吸をした。やっぱり、美味しい。

「うーん、はー」と背伸びをしながら手を空に挙げてストレッチをした。

これで目が冴えたので「これでよし!さていくぞ!」と言ってフルフェイスのヘルメットと軽いリュックサックを背負い、愛車のninjaが置いてある家の駐輪スペースまで歩いた。

「おはよう!今日もよろしくね!相棒!」とバイクに話しかけた。毎日の定番になっている。日本には、古来から付喪神(ツクモガミ)という話がある。大切に長い間、使われていた道具が心を持ち新しい魂を宿すという話だ。道具を愛玩していくことを美徳とする日本人の良いところだと私は思う。だから、大事に手入れをして話しかけたりしたら、いつかバイクから声がてきてくれたら恐ろしい反面、嬉しくなる気がする。だから、いつかの日のために私は、毎朝ninjaに話かけるようにしている。もちろん、周りに人がいないトイ限定だけどね。もし、誰かに見られたら不思議ちゃんになってしまうからそれだけは避けたい。

あの、男との出会いで私は、だいぶ変わってしまったのかな。以前は、誰かと一緒にツーリングなんて考えたこともなかった。「孤独でひとりを楽しむ乗り物」それがバイクだと思っていた。でも、今はなんか違う。

私は、一人が好きだ。自分一人でやると達成感が独り占めできるし誰かに期待して裏切られることもない。人に変な期待をしてバカを見るのは、一番バカらしく思う。

こんな、誰にも騙されない。誰も騙さない。自分に正直に生きることが私は何よりも正しいと思って過ごしてきた。ごまをすらない、忖度をしない、歯に衣着せない、そうやって生きてきた。そんなことをしたら、中学生や高校生の女子達は私のことを嫌っていた。私もあいつらのことが嫌いだ。あの冷たい目が嫌いだ。

北極姫というあだ名をつけながら、「本当に冷たいのはどっちだ!」と何度大きな声で叫んでやろうかと思った。だけど、その叫びは、ガソリンに変えてエンジンに流して大きな排気音に変えてninjaが叫んでくれた。その音を聞いていると私は、初めて生きている心地がした。一生この感覚を大事にしようと思った。

大学に入る時も期待をしなかった。自分にも周りにも何も求めないようにした。口喧嘩は、昔から強かったので近づいてくる、むさ苦しい男は即K Oしてきた。

だけど、あの男は私にこう言った。「お前だよ!散々人のこと言ってくれたな!お前何様のつもりだよ!人に優しくされたことがないのかよ!友達いないだろお前!」と私が内心少し気にしていて蓋をしていた瘡蓋をぐりぐりと抉ってきたのだ。

その後も忖度なしに心の中の全ての毒を私にぶつけてきた。それが何より新鮮だった。嬉しくは、ないけどバイクに乗っている以外の時間に初めて生きていて、地に足がついた感覚がした。

だから、しばらくこのよく分からないが面白そうな男と大学生活を過ごそうと思った。時間がいっぱいあるならこんな風に使ってもバチは当たらないだろうから使ってみることにした。そんなことを考えながら今に至る。

今までのことを考えてバイクに乗っていたらすぐに時間が経った。

兎和との待ち合わせ場所のコンビニに着いた。周りを見ると兎和のバイクも他の車もない。少し待ち合わせより早く着いたから中に入って待っていよう。

私は、バイクからおり、ブーツのカタカタとした足音を鳴らしてコンビニの中に入った。眠くならないように缶コーヒーをまず初めに選びに店の奥に向かった。

私は、コーヒーは無糖のブラックしか認めない。それ以外は甘ったるいと思ってしまうほどバイト先の「トラベル・ラビット」という喫茶店で洗脳された。この店の名前が気に入ったのでバイトに高校生の時に応募した。まさか、この名前からあんなおじさんが出てくるとは思わなかったけど。面接の時に思わず笑いそうになったのを堪えたのを思い出して、笑いそうになった。誰もいない、朝のコンビニで良かった。

缶コーヒーを手に取って雑誌コーナーの方を抜けて行こうとしたら、寝癖のついた見たことある男が目の前に現れた。胸が少しだけキュッとなった。今まで知らない変な感覚で気持ち悪いけど、心地がいい変な気持ちだ。以前はこんなことが起こる事は、なかった。

咄嗟に口から「あら」と言葉が出てしまった。すぐに「おはよう」って言えれば良かったのに。

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