第22話 出発の朝(そこまで大それたことではない)

「ガチャン」と家の扉が閉まる音がアパートの廊下に響いた。

朝の空気は、透き通るように明るく綺麗な色をしている。まるで、波紋のないプールみたいだ。普段こんな早く起きることはないので、今日の内にめいいっぱい味わっておこうと思う。そう思い深呼吸をした。

「スーーーハーーーー」と肺の細胞に新鮮な酸素を取り組むと朝6時なのに自然と目が冴えてくる。なるほど、朝早く起きる人は、きっとこの感覚が好きなんだろうな。カフェインも摂取せずにこの効果はきっと健康にもいいはずだ。

眠いはずだった足取りは、軽くなり駐輪場まであっという間だった。

「さてと、じゃあ待ち合わせの場所に行こうかな」と今からやることを自己暗示するみたいに呟いた。

T Rの鍵穴のあるフロントの横の部分に鍵を入れエンジンをかける。

「ウィーーン」とエンジンの中に燃料が入っていくのがいつもよりはっきりと聞こえる。

その音がさっきの俺がした深呼吸みたいに聞こえた。

そんなことを考えた後、親指でエンジンのスイッチ押して始動させた。

ニュートラルのランプが青緑色に光っている。

『ドコドコドコドコ!!』と単気筒バイク独特のアイドリング中の音が聞こえてきた。

ヘルメットを被り、グローブをつけ準備を整えた。グローブをつけると今から運転をするという気分になる。気分が右肩上がりになる。

モチベーションが上がったので、バイクに跨り、足を上手く使い、駐輪場の出口の方に前輪を向ける。

左手でクラッチを切り、ギアをニュートラルから1速に落とし入れた。

「ガチャン!」とギアが変わった音が響いた。

クラッチを繋いでハンクラ状態を保ちながら発進した。最近ようやく発信に慣れてきた。もうクラッチを離しすぎてエンストすることもないだろう。ちなみに、教習所でエンストするとすごい眼光で教員に見られるので注意したほうがいいよ。

発進した後は、すぐに道路に出て北極姫との待ち合わせ場所のコンビニに向かった。

町はまだ起きている人が少なく、道路も空いていてとても走りやすい。バイクで走っていると風が心地良く体を包み込んでくれる。

歩道を見ると朝からランニングをしている健康信者がチラホラ見える。

『皆様ご苦労様です!』と内心で呟いてみたりした。

待ち合わせのコンビニまでの道のりで楽しめるのが道を眺めるいい所だと思う。あんまり急がずに「トコトコ」と比較的ゆっくりと走るのが俺には向いている。

そろそろ、待ち合わせ場所に着く。大きく7の看板が見えてきた。俺は、軽くフットブレーキを踏み軽く減速をした。減速したのをフロント部分のメーターで確認してギアを一つ下げて、エンジンブレーキを聞かせるためにアクセルを元に戻した。

「ぶーーん」と摩擦音がヘルメット越しでも聞こえる。それと同時にみるみる速度が下がっていった。

速度が下がったのを確認してクラッチを握りしめた。すると、さっきまで響いていた摩擦音が消えてバイクは、綺麗に転げている。この感覚は、スケートみたいに滑っているみたいで楽しくて好きだ。

左折の合図を出して歩行者が通ってないことを確認して左のコンビニの駐車場に入った。すると、よく見慣れた青色と黒のボディがかっこいい北極姫のスポーツバイクがあった。バイクの側に奴はいないので多分コンビニの中にいるのだろう。

北極姫のバイクの隣のスペースに俺も駐輪をしてギアをニュートラルに入れて鍵を戻した。そして、支え棒を出してバイクから降りた。降りた瞬間に『コテン』とバイクの首が左に曲がり落ちた。

ヘルメットを外しヘルメットホルダーにかけた。よく、ヘルメットをミラーに「スポン」と被せている人を見かけるが俺は理解ができない。ヘルメットは、大体一万円から四万円ぐらいの相場になっている。そして俺のヘルメットは、税込一万九千円した。そんな高価なものをこの、野蛮な社会に野放しにする人なんて、偏差値が25ぐらいしかないんじゃないかと思ってしまう。そんなことを考えながら、ヘルメットをホルダーにかけた。

北極姫も中にいるだろうし、とりあえずコンビニの中に入ろう。朝ごはんもまだ食べてないしな。

俺は、コンビニ野中に歩いて入った。そして、すぐに雑誌コーナーを横切り奥の方のドリンクのコーナーに入っていった。そうしたら、『あら』と小さく驚いた声が聞こえた。

目の前を見ると、缶コーヒーを手に取り、口が小さく開いた九能一花そこにいた。

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