第21話 スカイライン
「ごゆっくり」と言って店主はカウンターの中に入って行った。
一通り食事を終わらせてコーヒーを口元で少し傾かせた後に「さて、本題に入ろうかしら」と神妙な感じに言った。
なんだろう、すごくコーヒーを飲む姿が様になっている。こいつ飲み慣れてるな。
「今日あなたを呼び出したのは、他でもない‥」
「他でもない」
「他でもない、今度の週末にデイツーリングの予定を立てましょう!」
「デイツーリング?」
「そう、日帰りのツーリングのことよ!せっかくバイクを買ったんだから、それぐらい行動的になりましょう!」
そう言いながら目に星を入れキラキラ輝かせながら、手をカバンに入れて付箋が何個も貼ってあるハンドマップを取り出した。そして、蛍光ペンも机の上に出してツーリングのルートを決める準備を完了させた。
「さぁ、どこに行く?山?海?それとも地平線の彼方まで?」
「そんなとこに行ったら帰れなくなるだろうが」
「私は、どこまでもいけるわよ!ガソリンが切れるまで時速120キロでいくわよ!」
「ガス欠してるし法定速度普通に破ってるじゃん」
こいつカフェインで酔っているのかってぐらいテンション高いな。いつもよりも声が一オクターブ高いしなんだか楽しそうだ。
「細かいことはいいわ、さぁどこにいくの?」
「‥いきなり言われてもな」
俺が悩んでいるとカウンターの方からゆっくりとしたリズムの足音が聞こえてきた。
「江田島の方に行ってきたらどうだい?」
話を聞いていたマスターが案を提示してくれた。
「江田島ですか?」
「そう、江田島だよ。ここから100キロぐらいの所の島で箸で繋がっているからバイクでも回ることができるよ。島の海岸線を見ながら潮風を浴びて走るのは、最高だと思うよ。あと、途中で美味しい海鮮が食べられる飯屋や温泉もあるから一日中遊び尽くせるはずだよ」
「なるほど、いいですね!」
「じゃあ、来週は江田島にデイツーリングで決定ね!」
「なら、ルートはどうしようか?」
地図を読みながら「ここからだとこの道を通って山を越えて峠を下っていけばすぐにつきそうよ」と指を地図の上をなぞりながら言っている。
そのなぞったルートを見たマスターは「ふむふむ」と頷いて口を開いた。
「そのルートなら、ここに寄るといいよ」と北極姫のなぞったルートの途中の場所をいくつかあげていって地図に丸をつけてくれた。
「そこは、江田島にドライブ行く時によく寄るんだけど、綺麗な景色見ながら美味しい海鮮のご飯が食べれるから二人で行って見たらいいよ。もう一つ丸つけたのは、知り合いがカフェやってて、そいつが作る江田島名産のレモンを使ったスイーツが絶品だからぜひ食べてみてくれ」
「なるほど、いいところ教えてもらったな」
「そうね、じゃあ、こことここを回って江田島の景色を見ながら一周して帰ろう」
「うん、賛成よ。そう言えばマスターてドライブ好きだったんですね。初耳ですよ」
「まぁな、最近はあんまりだけど、若い頃はブンブン言わせてたね。今でも時間があって気が向いたらフラーと何処かに行ったりするけどね」
マスターは、なんだか若い時の事を聞かれて嬉しそうだ。
「ふーん、車は何に乗ってるんですか?」と北極姫は会話を続ける。
「知ってるかなー、日産のスカイラインていう車を今は乗っているよ」
「知らないですね」
「まぁ、その内車に興味が出たら自然と知るでしょ。一応これ写真ね」
その写真には、アロハシャツにサングラスをかけて、紅色のスカイラインをバックに笑いながらピースサインをするマスターの姿があった。この人は、人生楽しんでるなっていうのが伝わってくる写真だった。
「かっこいいですね」
「ふふふ、お世辞でも嬉しいよ」
そう言ってマスターは、写真と同じように優しい笑顔を見してくれた。サングラスの下は、優しい瞳をしていることがわかった。
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