第20話 コーヒーとイケオジはよく合う

十分も経たない内に北極姫は、おぼんに注文した料理を置いて帰ってきた。

「お待たせしました。注文のミックスサンドイッチとアメリカンブレンドコーヒーです」

流暢な言い方をする北極姫にはまだ見なれない。白い透き通るような細い腕を伸ばして、おぼんからサンドイッチの乗った白い丸皿を運んで俺の方に持ってきてくれた。その後、右側の丸皿の少し斜め上にコーヒーカップを置いた。コーヒから出る白い湯気が何ともいえない香ばしい香りを出している。あまり、コーヒーが好きでない俺でもこの匂いがいい匂いということはわかる。

「あ、あ、ありがとう」

「急にどうしたの?あなたらしくない」

「なんか、言わないといけないなって思って言った」

「倫理の授業の影響かしらね。少しは礼儀作法をわかってきたのね。どういたしまして」

少し笑いながら最後の二文字を言った北極姫は少し嬉しそうに見えた。人にありがとうと言われると嬉しいのか。それともただの社交辞令なのか俺にはわからない。

「じゃあ、私の分の料理を運んでくるから少し待ってて」

そう言ってまた、北極姫はキッチンのカウンターに行った。だけど今度は、すぐに帰ってきた。さっきと同じおぼんに和風の明太子スパゲッティーとアイスコーヒーを乗せて、運んできた。そして、俺の座っている二人掛けの机の正面に運んで置いた。

そして、隣の空いている机におぼんを置いて椅子に座った。

「ふー、疲れた。やっぱり5時間の労働は疲れるわね」

「今日、5時間も働いてたの?」

「うん、この店モーニングの営業もしているから朝6時から営業してるの。私は7時から働いてるわ。だからお腹が空くのよね。我慢できないから食べるわね、いただきます」

そう言って備え付けられているフォークとスプーンを慣れた手つきで口元にクルクルと巻いたスパゲッティーを口元に運んだ。熱々で茹でたてのパスタに生クリームと明太子のソースが重力に逆らいながら麺に絡みついているのが見える。とても美味しそうに見えてヨダレがじゅわっと出てきた。向こうも食べているので、俺もミックスサンドを食べることにしよう。

「う、このサンドイッチすごいうまいぞ!」

柔らかいパンに挟まれたレタスとトマトと厚焼きの玉子が口の中で、ハーモニーを醸し出していて、それぞれの食感を最大限に生かしているサンドイッチになっている。もう一つの方のサンドイッチも卵とマヨネーズがふんだんに使われており、断面から美味しそうが溢れているの。

俺が目を見開いて食べてたら、北極姫がすごい自信で話しかけてきた。

「でしょ、うちのマスターが作る料理はどれも最高なのよ!最高のシェフで最高のバリスタなのよ!」

「そんな褒めなくていいよ。俺は、普通の喫茶店の店主だよ」

べた褒めされて恥ずかしくなったのか奥の方から店主が出てきた。白髪をオールバックでガチガチに固められて、清潔感のある服装ですっきりとしたお腹がイケてるオヤジ感が醸し出している。うーん、年を取ったらこんな風なおじいさんになりたいな。

「初めまして、この店の店主の炭谷二郎です。作った料理がお口にあって光栄です。以後、お見知り置きを」と丁寧なジェントルマンみたいな挨拶をしてくれた。自分も挨拶を返さねばと慌てて口を動かした。

「初めまして、兎和篤士です。大学でほっきょく、じゃなかった九能さんとバイクで知り合った友達です」

「私の心の友です」

こいつ、そんなこと一言も聞いたことないぞ。都合のいい時だけジャイアンみたいなこと言ってる。

「そうなんだ。学校の話聞いてもいつも答えてくれないから、てっきり友達いないかと思ったよ。いやー、本当によかった、よかった」

あながち間違ってないですよ。と言おうとしたがこの店での、この女の評判を下げるのは可哀想だと思ったので言うのをやめた。優しい人だな。

「さてと、ご飯も食べたことだし、そろそろ、話の本題に入ろうかしら」

「へ?」

妙に神妙な顔をしてアイスコーヒーを飲みながら話を続けた。いきなりどうした?さっきと雰囲気が変わった。

「実は、あなたをここに呼んだのは‥」



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