第16話 SR400

「私が乗るバイクは、YAMAHAの『S R400』です!」

「S R400ですって!?」

北極姫は、少し驚いた顔をしていた。一体どんなバイクなんだろう?

「へー、それってどんなバイクなの?」

「えーっとですね‥」

「ただの古臭いおじさんが乗っているようなバイクよ」

北極姫がそう言うと小鳥遊紗羅は、普段の態度とは違い声を大きくして反論した。

「違います!そんな言い方しないでください!S Rは、古臭くなんかありません。歴史があって芸術品といっても良いぐらい美しい凛としたバイクなんですよ!古臭いなんて言い方をする、あなたの美的センスがおかしいんじゃないんですか!?」


 彼女は、小柄な体を大きく使いながら身振り手振りで目の前にいる俺と北極姫に力説してきた。その時の目の中には、お星様が入っているんじゃないかと思うぐらいキラキラしていた。


 ふと思ったんだか、なんでこんな放課後は、スタバの新作を毎日飲んでばかりしているようなちょっとオシャレなどこにでもいる大学生の女の子がなんでバイクなんだろうか?乗っても原付ぐらいだろうしな。話を聞く限りでしか知らないが、そんな渋いバイク乗るような子にはやっぱり見えない。人は見た目で判断してはいけないが、人は見た目が99パーセントとも言う。


 北極姫ほど性格的に捻くれているような気はしないし。考えれば考えるほど疑問が深まるばかりだ。

「そんなこと言う、あなたはどんなバイクに乗っているんですか?」

 小鳥遊紗羅は、北極姫に指をピーンと刺しながら強い口調で言った。

 それに対して、北極姫は待ってましたと言うほど勢いよく答えた。

「私のバイクは、このKAWASAKIの S S(スーパースポーツ)の『ninja400』よ!この無骨で精悍な顔つきのバイクは他にないわ!」

「何ですかこのバイク?すごい男臭いですね。美しさのかけらもないですよ!女の子が乗るバイクじゃないですよ」

 北極姫もひどい言い方をするけど、君もなかなか思ったことをフィルターにかけずに言うようだね。

「はぁ?このninjaの良さが分からないなんてほんとにあなた日本人?キャン ユースピーク ジャパニーズ。ドゥ ユー アンダースタンド?」

すごいムカつく英語の言い方をしている。まるで小学生の喧嘩だ。


 二人は、その後も一時間ぐらい自分の価値観を押し付け合いながら話を続けた。議論は、平行線を保ちながら一瞬たりとも交わることはなかった。S Rが良いという小鳥遊さんとninjaが良いという北極姫は、お互いにメンチをキラつかせながら最後まで一歩も引かなかった。


 小鳥遊さんが見た目とは、違い中々芯のある女の子だという印象になった。フリフリのスカートを履いているのにあそこまで発言を強く主張できる子は、見たことがなかった。

 結局、最後は次の授業が始まるということで、一時的に休戦という形で話は、終わった。


 めんどくさい喧嘩に巻き込まれたが、一つ良いことがあった。それは、小鳥遊さんのラインをゲットできたことだ。


 小鳥遊さんが去り際に「兎和さん、スマホのライン交換できますか?」と聞いてくれた。俺は、取り乱す気持ちを必死に抑えながら「あ、あ、これでいい?」とスマホのラインの画面を出して見せた。こんな時に、スマートに仕切れる男がモテるのだと自分で自分を蔑んだ。俺にはできない。


「はい!これでいつでも連絡取れますよ!また、遊ぶ時とかバイクで何かする際は、誘ってくださいね!それじゃあ!」そう言って小鳥遊さんは、手を振ってくれた。あー、シンプルにかわいいです。

 俺が少し心を暖かくしていると、後ろから『バッチ!』と後頭部を叩かれた。


「痛いな!何するんだよ!」


「ん!スマホ出しなさい!」


「あ?」


「良いから出しなさい!」


「は、はい」と俺は北極姫の気迫に押されてスマホを出した。



「はい!私のラインも登録しといたから」


そう言いながら、少し恥ずかしそうにしている。


「あ、ありがとう」


「じゃぁ、私も今日は疲れたから帰るわね。あの女には、気をつけなさいね。なんか嫌いだから」


「自分勝手だな」


「うるさい!それじゃあ、またね!」ヘルメットを被り、小鳥遊さんのように優しくすこしぎこちなく手を振ってくれた。ヘルメットの隙間から見えた目は、綺麗だった。


そして、バイクに乗り北極姫は、風のように去っていった。


こうして、一気に二人の女の子の連絡先をゲットしてしまった。

『俺は、明日死ぬのか‥』と思ってしまうほどの幸運が起きた。この出来事を一生自慢しよう!と誓うのであった。

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