第14話 姿勢について
「バイクに乗ってこんなに興奮したのは初めてだよ」
バイクのエンジンは、定期的な機械音を出しながら俺たちは、会話を続けた。
「良かったわね!まるで、初めて馬に乗った子供みたいな目をしているわよ」
「そんなことはない!」と少し早口になりながら言った。
「ふふふ。あなたもライダーらしくなり始めたわね」
北極姫は、少し嬉しそうな表情を出しながら口を開いていた。
「さてと、じゃあ乗った事だし、姿勢について私が手とり足とり教えてあげるわ!」
そう言って、北極姫及び九能一花は、俺の腰に手を優しく回してきた。手が腰に触れた時に、なんだかすごく腰の辺りが暖かくなってきた。
「ん」少しだけ情けない声を出してしまった。つられて体も少しだけ動いてしまう。
「こら、もぞもぞしない」
「少しくすぐったいんですが‥」
「あなたは、バイクに乗っている時に痒いからって動いたりするの?事故起こして死ぬわよ」
北極姫は冷徹な雰囲気でそう言った。真面目になると氷点下まで急に下がるのである。
「はい。我慢します」と俺は半ば棒読みで言った。
「じゃあ、もう少し背中を真っ直ぐにしてみて」
「こうか?」
「そうそう!そんな感じよ」
「なるほど」
「もう少しだけ、肩の力を落として楽にしてみて。基本的に肩に力を入れる必要はないわ」
「分かった」
肩の力みをスッと解放してみる。おー、だいぶ楽になった。
「バイクに乗る時は、姿勢がとにかく大事になってくるわよ。バイクに長時間乗る時の疲れのほとんどが姿勢に関係してくるのよ。疲れて突然『ドーーンッ!』てくるような疲れや痛みじゃないのよね。なんて言うか、『ジワジワ」って疲れが蓄積されて痛みが爆発するのよね。たまに腰が砕けたかと思うほどよ」
「よく分からないが、辛いことはよく分かった」
「ならいいわ。とにかく姿勢は大事よ。そこが分かってくれれば大丈夫よ。あなたがバイクに乗ってすぐ嫌なことがあって一緒に乗らなくなるのは、嫌だもの」
「そうなの?」
頬を少し赤らめさせて自分の言った事を確認した一花は、目を踊らせながら「違う!違う!そう言う意味じゃなくて!」と取り乱していた。なんだ、すごく可愛いじゃないか。俺もその様子を見て少し口角が上がってしまった。
「えーと、とにかく!一度バイクに乗るって決めたらこれからも乗りなさいよ!そうじゃないと轢き殺すわよ!ふんっ!」
そう言って、北極姫は俺の方からそっぽを向いた。
「分かったよ。とりあえず長く乗れるように頑張ってみる。だから、いっぱいバイクの楽しいことを教えてくれよ」
「うん!教える!」と無邪気な小学生みたいな笑顔をこちらに向けながら応えた。
多分こいつ、虚勢を全部取ったら精神年齢相当低いんだろうな。大事な部分は、まだ汚れがなくて少しホッとした。問題は再教育かな。それをするのは、少し骨が折れそうだ。あとめんどくせぇな。
「さてと、そろそろバイクから降りようかな」
俺が、バイクから降りようとしたその時だった。北極姫の方の奥から女の子が歩いてきた。どこか見覚えのある感じだ。
「あー!こんにちは!えーと、兎和篤士さんでしたよね!」
小鳥遊紗羅がフリフリの服を着て、キャピキャピしながら現れた。
そして、同時にこっちに顔が向いていた北極姫の顔が春から真冬へと逆戻りしていくのがすぐに分かった。
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