第13話 バイク
「あーもう、しつこかったなーあいつ!マジで顔面蹴りたかった」
北極姫のことが好きな男子からするとそれは、ご褒美になるのかと思いながら北極姫の感情を収めようとした。
「そんなことを、人前で言うようなことじゃないぞ。今は、ま悪い人がいないから別にいいけど」
俺と北極姫は、食堂を出た後に特に何もすることがなかったので北極姫のバイクを置いている駐輪場に向かっていた。
駐輪場で何をするかと言うと、北極姫曰く教習中の俺のバイクに乗っている時の姿勢が良くないらしい。なので「私が手厚く教えてやるよ」とイケメンなことを言った。お言葉に甘えて、ありがたく教えてもらおう。人の好意には、ありがたく乗るのがいいと死んでないおじいさんが言っていたような気がするからそうしよう。
「よし、ついたわよ」
駐輪場に着いた。バイクは数台しか止まっていなかったがその中でも北極姫のバイクは存在感を放っていた。なんていうか「俺はここにちゃんといるぞ!」とバイクの方から示しているような感じだった。
「うん、普通にかっこいいな。お前のバイク」
「でしょ!世界で一番かっこいいと私は思っているからね!」とさっきとは打って変わって笑顔を顔に表している。こうして見るとかわいい女の子だな。
少しキュンとした。
「さてとじゃぁ、バイクの乗り方について基礎をおさらいしましょうか。じゃあまず初歩の初歩でこのバイクは、A T(オートマチック)でしょうかM T(マニュアルトランスミッション)でしょうか?これが分からなかったら殴るわよ」そう言いながら握り拳を作っていた。
「そんなのM Tに決まっているだろ。誰でもわかるだろ。だから、その手を降ろせ」
「よかったわ。これぐらいのことがちゃんと分かって。前A Tて知らない人に言われた時は轢き殺そうかと思ったぐらいかな」
「やっぱり怖いわ!お前!」
こいつは、一歩間違えていたら今頃は檻の中だったのかもな。人間は色々な分岐点を常に選んでいることを実感した。
「まぁ、常識的な範囲の問題はここまでとして、じゃあ、A TとM Tの1番の違いは何だと思う?」
「え、自分でギアを変えて調節できるところかな?」
「そうね。M Tは、人間がスピードに合わせて手動でギアチェンジを行う。一方のA Tは、機械がスピードに合わせて自動でギアチェンジを行う。まぁ、バイクの場合見た目のカッコ良さでほとんどの人は、M Tを乗るんだけどね。だから、どのギアがどんな役割を持っているかをちゃんと把握しないといけないわよ」
「例えば?」
えらく真面目な話をしている。バイクの話になるとやっぱり人が変わるな。北極姫は丁寧に教えてくれた。
「例えば、4速のギアで坂道を発進しようとしたらどうなると思う?」
「エンストするかな」
「正解です。ではなんで?」
え、教習所でまだ習ってないぞ。俺は少し間を空けて黙ってしまった。
「それは、パワーが足りてないからです。4速のギアは、速いスピードの時だと軽いけど、止まっている時から動き出す際にはパワー不足になってしまうのよ。じゃあ、そうならないようにするには、どうしたらいい?」
「単純にギアを落とす」
「そうね、高いギアとは反対に低いギアは、高速移動には向いてないけど低速で粘りのある力強い走りをするのに向いているわよ。まぁ、簡単に例えると、高いギアは、マラソン選手で低いギアは、お相撲さんてイメージかな」
「なるほど、すごいわかりやすかった!」
「でしょ!さすが私!」と鼻を少し高くしながら言っている。ノリノリだな。
「さて、バイクについての基礎知識はここまでにして、いよいよ実践よ!今回は特別に私のバイクに跨る権利をあなたにあげるわ!」
そう言うと、北極姫は屋根のある駐輪スペースから自分の体より一回り大きいバイクをゆっくりと押して出した。
「さぁ、乗っていいわよ!」
俺は、北極姫のバイクに少し緊張をしながらも乗った。
乗った感覚は教習車とは違った。生きた心地というか、がっしりと太ももでしがみついていないと今にも振り下ろされそうな感覚だ。これがスーパースポーツバイクかと圧倒されてしまった。
そんな顔を見た北極姫は一言
「エンジンかけるともっと凄いわよ。かけてみる?」
俺は、『コクリ』と頷いた。
北極姫がフロント部分にあるエンジンをかけるスペースに鍵を差し込み捻った。緑色のニュートラルのランプが『ポッ』とついた。
そして、エンジンを始動させるスイッチを俺は静かに押した。
『キュイーン!ドドドド!』と爆音を上げながらバイクは目を覚ました。
「すげぇ‥」
鳥肌が立っている。
何にも興味のなかった俺が自分が初めてここまでバイクに興奮していることがわかる。
北極姫は、楽しそうに乗っている俺を見ながら微笑んでいる。
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