第9話 小鳥遊紗羅は育ちがいい
〜教習所の待合室〜
「お疲れ様!どうだった初めてのバイクでライドのインプレッションは?」
「お前、ルー大柴みたいな喋り方してるぞ」
待合室でずっと待っていてくれた北極姫は、仲間が増えたみたいに嬉しそうだ。きっと、北極姫は友達がいなくて寂しかったんだな。
少し哀れみを送りながら俺は北極姫の質問に答えた。
「思ってたよりも楽しかったな。バイクに乗るとこう、胸の奥からアドレナリンが出てる感じて言えば良いかな?こうドバッて感じで楽しくなっていく」
北極姫に合わせてこんな感じで話して果たして伝わったか不安だ。
「おめでとう、あなたも立派なライダーよ」と言いながら北極姫は握手を求めてきた。
「あ、ありがとう」
そんな感じの暑苦しいやりとりをしていると後ろに何やら気配を感じた。振り返ると、さっきの小鳥遊紗羅がモジモジしながら立っていた。
「あの、すいません、先程はありがとうございました」
「あ、どうも。お互い緊張しましたよね」
「誰この女?」
北極姫モードスイッチがオンになったみたいだ。めんどくさくなりそうだ。
「私すぐ緊張してしまって、緊張すると体が動かなくなって何もできなくなるんですよね。あの時に兎和さんが場を切り出してくれなかったら、私は何もできなかったです。だから、本当にありがとうございました」
「ジーーーー」て感じで北極姫は無表情でこちらを見ている。凍てつくような目でこちらを見てると北極姫の名前の由来が何となく分かる。
まぁ、後で弁明したら良いと思い北極姫のことは雑誌を置くみたいに放置して、小鳥遊さんに返事をした。
「そんなふうに捉えなくて全然いいよ。あれは、俺が聞きたかっただけだしね。偶然緊張がお互いに被ってただけだよ。それに、小鳥遊さん最後は俺よりコツを掴んで上手くなってたから自信持っていいんじゃないかなて思うよ。だから、小鳥遊さんは大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます!そう言ってもらえると大丈夫な気がしてきました!」
明るい顔になって良かったと思ってたら、何やら後方から凍てつく波動を感じた。
「本当に大丈夫かしら?緊張はバイクの大敵よ。常に精神を落ち着かせて乗らないと危険だわ」
「え‥」
小鳥遊さんは、一瞬目と口が止まった。俺は言いたい。「君は何も悪くない」ことを。
「おい‥」と小さく声が途切れた。
「事故を起こす前に諦めた方が世のためになるんじゃないの?」
「ベッシ!」と俺は軽く北極姫の肩を叩いた。
「そんなこと言うんじゃない!」
「だって!!」
「ごめんね、小鳥遊さん、こんな奴でも根は悪いやつじゃないんだよ。ほら謝れ!お前も!」
「あ、あの、私そんなに気にしてないので大丈夫ですよ」
「いや、この無礼な態度なこいつは人間関係を構築するのが下手くそで礼儀を知らないんだよ。だから、ちゃんと礼儀を『失礼なことを言ったら謝る』ことをこいつに叩き込まないといけないんだよ」
そう言いながら、俺は北極姫の必死に抵抗する体を謝るように抑えた。しかし、北極姫の抵抗は増す一方だ。
「嫌だ!絶対謝らない!謝ったら死ぬ!!」
「小学生かお前は!良い歳してそんなのだから、お前友達できないんだろうが!」
「だって、謝るなんて自分から負けを認めているようなものじゃない!」
「お前は、誰と戦っているんだ!お前が戦うべき相手は、目の前の人じゃなくて内なるクソみたいなプライド持った自分だろうが!」
「それでも嫌だ!」
「ちゃんと謝れ!お前のためだぞ!」
本当は、こんな感じで一緒にいる時に次から次へと人間関係を悪化させられたら困るからこいつの人間性の矯正をしないといけないと思っていた。それに、小鳥遊さんにも申し訳ないからな。この小学生を何とかしなくてはいけない。まぁ、普段は良いやつなんだけどね。
そんなやり取りを見せられた小鳥遊さんは「ふふふ」と笑っていた。
俺は不思議に思い「ん?どうしたの?」て聞いた。
「だって、お二人の仲が良いんだなーて思って、その兄弟みたいに見えてきてつい笑っちゃいました」
「兄弟?こいつと?」
「はい!」
「マジかこいつと‥」」
「何よ!」
「あ、すいません、もう迎えがきたので私ここで失礼します。兎和さん!また会った時は仲良くしてくださいね!また、一緒に頑張りましょうね。今日は、ありがとうございました」そう言って小鳥遊紗羅は、待合室を出て行った。
この子は、多分育ちがいいんだな。こいつとは大違いだ。
「何よ!!あれは気に入らん女だわ!今日はもう帰るわよ!」
「そうだな、疲れたし帰るか」
こうして、俺たちも帰路についた。
なんか、最近俺の周りの人間関係が騒がしくなってきた気がする。
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