第2話 北極姫

「とんだ災難だったな。外から見てたけど、あの北極姫に目をつけられるとは、お前も運がないな」

「北極姫?」

「何だ、知らないのか」

「うん」

 そんなあだ名をつけられるぐらいだから他にもこんな思いをしたことのある被害者が多いのだろうな。しかし、物騒なあだ名だ。

「北極姫。本名は、九能一花。容姿は悪くないのだが、誰に対しても冷徹な態度をとるから北極姫というあだ名をつけられている」

「へー、有名人なんだな」

「まぁ、一部のマゾスティクな男から好かれてる。けれど、正直俺はそうでもないんだよな」

 最低な妄想だけど、SMクラブの嬢王様の格好が似合いそうだと思った。こんなこと、人には言えないけど。

「あの少しツリ目とあの態度から、俺いつも思うんだけど、九能一花ってSMクラブの嬢王様の格好とか似合いそうだよな」

こいつは‥。頭の中にコンプライアンスのフィルターとか全くないのだろうか。脳から声帯が直接繋がっていて思っていることがすぐに口に出るのだろうな。ここは、このノリに乗ってみよう。

「そうかもな。『このコスプレやってくださいっ!』て頼んでみたらどうだ。ちなみに俺は、女聖騎士のコスプレがして欲しいな」

「そんなこと言う、勇気ねえよ」

「やったら、褒めてあげるよ」

「それだけでやると思うなよ。ハイリスクでロウリターンじゃないかよ」

「ロウリターンじゃないだろ。リターンには、目の保養があるだろ」

「それは、でかいけどやっぱり無理だな。それに、俺は、お前みたいに北極姫に冷徹な事を言われるよりも、言われているやつを見る方が好きだな」

「そうだな、俺も次は観客としてみてみたいな」

 そんな会話をしていたら、もう肥料を畑に混ぜる工程も終わった。この作業は足にきたらしく足が少し痙攣した。

 何でもないような作業だと思っていたけど、これをしないと野菜は育たない。これも大切なことだと実感できた。そしてその作業は、疲れることも。

そんな事を考えていたら「キーンコーン、カーンコーン」と授業が終わるチャイムが鳴った。

「よし、終わったー。昼飯一緒に食おうぜ、篤士」

 泥だらけの手袋をつけたままで言われてもな。まずは、身だしなみを整えることが必要だ。毎回、この授業の後は、更衣室に入って軽く着替えている。

「食堂に行こうと思うけど、その前に更衣室に行こうと思うんだけどお前どうする?」

「そうだな、この後は、何も授業ないから手を洗うだけでいいや。だから先行って席を取っておくよ」

「分かった。ありがとな」

 更衣室に行った。なるべく早く着替えようと思い、少し早歩きをした。


 少しだけ汗をかいていたみたいで、服がジメッとしていた。更衣室に来て正解だった。

 更衣室で持ってきていた長袖に着替えた。そして、すっきりとした気分で更衣室を出た。次は、翼の待っている食堂に向かった。

 更衣室から食堂に向かうまでの経路は、駐輪場の中を通って帰った方が早く着く。だから、翼が待っていて、申し訳ないという気持ちから駐輪場の中を通ることにした。


 駐輪場の中をヨソヨソと歩いていると前方に見たことあるような人影を見た。

「あっ!」と思わず声が出てしまった。

 そこには、さっき会った北極姫がさっきまで着ていなかったライダーズジャッケットを着てサーキット場をグルグルと回りそうなバイクが傍にあった。北極姫は、ライダーズジャッケットが死ぬほど似合っていた。例えるなら、こたつとみかん、ラーメンとチャーハンのように生まれた時から合うのが決まっていたようなほどだ。

 くそっ!なんかムカつくな。

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