昊誓・理央 12歳

10歳の夏祭りから私と昊誓の関係がぎくしゃくしたままだった。毎年、縁祭りには一緒に行くもののこの二年間は帰るときは別々になってしまってる。この年は特に私が意識してしまって縁祭りに誘うことすら出来なかった。この年が初めて昊誓以外と行く夏祭りになった。

「理央ちゃん~お祭り行こー」インターホンを押さないで私の事を呼んでるのは真中まなかゆう。今も一番仲のいい部活の友達。そして私の知る中で一番優しくて一番ののアホの子。この子のアホさはなにも勉強ができないという訳じゃない。日常生活が送れないと言うだけで。まあ、しっかり勉強もできないんだけど。「理央ちゃん。今、私とんでもないこと思い出しちゃった。」笑顔のまま悠ちゃんが話し始めたから大したことじゃないと思ってた。「どうしたの?」「財布と家の鍵を落として来ちゃった。アハハ。」最後の方は乾いた笑いになってしまってる。「え、やばいじゃん。どこらへんで落としたか分かる?」しばらく考え込んで悠ちゃんが答えてくれた。「分かんない。家出る時にはもってたっけ?」「私に聞かれても知らないよ。探すよ」こんな感じで始まったこの年の縁祭り。この年の昊誓が縁祭りに参加したのか、してないのかは今もわからない。


「理央ちゃん、チョコバナナ食べたい」結局悠ちゃんの財布と鍵は家にあった。しかもそこそこお金が入っていた。「買えばいいじゃん。ついでに私の分の二つお願い。」「お金は返してね。」「分かった。チョコがちゃんとついてるのにしてね」

そんなやり取りの後に悠ちゃんが買って来てくれたチョコバナナはいつもより甘くなかった。


「花火そろそろ始まるね。どこで見る?」チョコバナナを二本食べ終えた時に悠ちゃんに言われた。「あ、それなら…やっぱ、何でもない」それならいい場所知ってるよって言いたかった。言えなかったのは昊誓の顔がよぎったから。その感情が何なのかは今ははっきりと分かるけど、この時は分からなかった。「えーじゃあ

、悠の勧めの場所でいい?」そう言って連れてきてもらったのは、屋台の裏を抜けて神社の周りにある林の中。その中に一部だけ葉っぱがなくて夜空がしっかり見えるところがあった。この年はいつもの神社の縁側で見なかった。林の中で悠ちゃんと一緒に見た。いつもと何一つ同じところのないこの年の縁祭りは四年近くたってしまった今ではうっすらとしか思い出せない位の終わり方になってしまった。

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