昊誓・理央 9歳
「祭り、行くぞ。」この時は8歳で語彙が増えてきて、親の言葉を真似してたのが自分の選んだ言葉というか親の使わない言葉を選んで使っていたと言っても過言じゃない気がする。
思い出してみて改めて思うけどこの歳の俺、口悪すぎじゃん。
「んーちょっと待ってー。後ちょっとで行くからー」この頃の俺は携帯とか持ってなくて、腕時計も買ってもらったけど邪魔なだけな気がしてつけてなかったから正確な時間はよく分からないけど三分ぐらい待ってた。今でこそ三分ってイライラするほどの時間じゃないけどこの時は早く縁祭りに行きたくてしょうがなかったから三分といえど大きな時間ロスになってるってイライラしてたんだよな。「お待たせー」
三分待って出てきた理央は浴衣姿だった。帯もメインの生地も黒い生地に赤い大きな花の柄が描かれたやつ。靴にもこだわって多分下駄だったと思う。今もだけど下駄と雪庇の違いがよくわかってないから下駄って表現が正しいのかすら分からない。ただ一つ言えるのはこの時の理央はイライラしていたのがどうでもよくなるほど可愛かった。
そんなかわいい子と一緒にお祭りを練り歩いていれば当然目立つ事になる。それが規模の小さいお祭りだったらなおさらの話。だから当然同じクラスの人にも会うことになる。
「えっ、あれ昊誓と八頭じゃね。」「は?そんなわけなくね。だってあいつらカースト違うじゃん」この年頃は知ったばかりの言葉を意味もよくわからず使いたがった。…人の心を考えられない時期でもあるこのころの何気のない一言。言った本人は忘れているであろう一言。今まで気づかない振りをしてきていた事を無視できないくらいに意識させられる一言。
今まで色のついていた世界が急にモノクロになった気がした。そこからの記憶はもうほとんどない。
この次の年から、俺から理央を誘って行く勇気はなくなった。
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