日色の空
ものがな
序章
一~二
最初に殺したのは、一匹の蝿だった。
一 下山おもや
お母さんが死んだ、私のせいで。だから私は、お母さんに会いに行かなければならない。会って、謝らないといけない。だってお母さんは、私のせいで死んだのだから。私がいなければ、死んだりなんかしなかったのだから。だから私は、月山を登る。月山の――神様の背中を、登る。
「わだちー!」
『廻り、なぞり、重なり弾け、また廻る』。
「わだち、どこ!」
私は呼びかける。いなくなってしまったわだちに向かって。一人じゃ心細いからと無理やりについてきてもらった、私の妹。まだ幼い彼女のこと、一人だけでそう遠くへといけるはずもない――はずもないのに、現実として、わだちはどこにも見当たらなかった。どんなに呼びかけても、どんなに叫んでも、返事ひとつ返ってこなかった。
「どこに行っちゃったの、わだちぃ……」
歩き通しの足が痛くて、いつか私はその場にしゃがみこんでいた。嫌な予感が、頭の中を駆け巡っていた。もし、万が一、このままわだちが見つからなかったら。二度と彼女と会えなかったら。……もうすでに、この世にいないとしたら。
お母さん。
涙がでてきた。とめどなく涙が溢れて、溢れる嗚咽を抑えられなかった。お母さん、お母さん、お母さん。お母さんに会いたい、わだちに会いたい、おじいちゃんに会いたい。一人は、怖い。ごめんなさいと、誰かが言った。ごめんなさいと、私が言った。溢れる嗚咽のその隙間から、潰れた謝罪が繰り返された。何度も、何度も、繰り返された。もう、何も、考えてなどいなかった。ただ、悲しくて、みっともなくて、自分で自分を、責めていた。私は私を、赦せなかった。
鳴き声。
うつむいた顔を上げる。か細く、甲高な鳴き声。気の所為――ではない。鳴き声は再び、私の耳の奥を揺らした。足の痛みも忘れて、私は立ち上がった。立ち上がったと思った時には、走っていた。その間も、鳴き声は聞こえてくる。そう遠くはない。方向も間違っていない。声はどんどんはっきりと、明確に近づいていった。そして私は彼女を――全身が産毛に覆われたままころころとした体躯の子犬を――、わだちを発見した。
「わだ――」
わだちは、私を見なかった。そんな余裕など、彼女にはなかった。三◯年以上前に起こった戦争の時、双見は空爆に曝されたことがある。その際に月山の一部は抉られ、抉られたその場所は以来禿げたまま脆い壁面を露出し、いまなお崖崩れを起こす危険な場所となっている。わだちがしがみついているのは、その禿げた壁面だった。脆いその壁面に、全身をいっぱいに伸ばしたわだちがしがみついていた。わだちの顔に、細かな砂利がいくつもいくつも降り注いでいた。けれどわだちは、それを嫌がる素振りすら見せなかった。それどころではなかった。下方へ広がる空間に遮るものは何もなく、行き着く底は木々の判別すら不可能な遥か彼方にあった。ちょっとした衝撃など物ともしない子犬の身体であろうと、この高さから落ちればひとたまりもない。……ああ。おじいちゃんの顔が、落下した時のおじいちゃんの顔が、喉奥を冷やす感覚と共に脳裏をよぎる。そして――状況は予感をなぞり、成るべくして最悪の形へと発展する。
「ち――」
彼女のしがみついていた岩肌そのものが、神様の表皮が、山そのものから剥がれ落ちた。剥がれたその塊と共に、わだちの身体が宙に浮く。宙に浮いたことで、わだちと私との位置関係が変わる。崖を向いて表情を伺わせなかったわだちの顔が、わだちの瞳が、墜ち、廻り、緩慢に流れるその時間の中で、その時、確かに、私を捉えた。瞬間、私は、目をつむった。『廻り、なぞり、重なり弾け、また廻る』『廻り、なぞり、重なり弾け、また廻る』。頭の表で、言葉が光り、頭の底で、言葉が暴れた。それは、つまり、お母さんとのお別れを迫られた時に何度も何度も何度も聞かされた言葉の、その反復。
家を出たお母さんは、二度と帰っては来なかった。
「ウロ!」
繰り返される無限の反復が、止まった。
声が、聞こえた。女の子の声。短く、強く、凛とした声。声は、すぐ側から聞こえてきた。強く閉じた自分の目を、私は開けた。そこには車椅子に乗った女の子と、女の子よりも幾らか大人びた雰囲気の男の子がいた。そして、男の子の腕には、ころころとしたわだちの身体が抱きかかえられていた。
「ウロ」
女の子が、男の子に向かって手を伸ばす。女の子の腕の中に、胸の中に、わだちが移される。わだちは目をつむったままだった。目をつむったまま、動かないでいた。知らず、手が心臓を、つかむ。
「かわいい子。あなた、お名前は?」
わだちは、私の小さな妹だった。一人の時間が増えるからとお母さんが連れてきてくれた、私の最後の家族だった。もし、この子までもいなくなってしまったら――頭の中で、またあの言葉が浮かび上がりかける。けれどその言葉が反復されることはなかった。車椅子の女の子が、また、声を発した。
「ね」
「……え?」
「名前、この子の。教えて欲しいの」
女の子は私を見ずに、聞いてきた。女の子の細く、しなやかな指が、何かを探るようにわだちの全身を撫でている。ゆっくり、ゆっくりと。そのどこか大人びた手付きを眺めながら私は「わだち」と、小さく答える。
「わだち、わだち、わだち……ふふ、いい名前だね」
彼女が笑った。あったかくて、安心を覚える笑み。まだ家が忙しくなかった頃の、あの頃のお母さんが思い出される。お母さん。
「あの……」
「だいじょうぶだよ、どこも怪我してない。きっと、びっくりしちゃったんだね」
疑問を口にするよりも前に、彼女は答えてくれた。答えながら、彼女がわだちの頭を撫でる。子犬の証である垂れた耳が、てのひらの動きに沿って前後に揺れた。わだちは気絶しているだけだった。わだちは、生きていた。わだちは、ちゃんと、そこにいた。考えるよりも先に、手が伸びていた。わだちの頭を撫でる彼女のてのひらと、私の指先とが触れた。わだちが、目を開いた。
わだちが、女の子の手に、噛み付いた。
「ウロ!」
私と女の子の間へと、何かが滑り込んできた。それは、女の子の隣に立っていた男の子の腕。ウロと呼ばれたその子の手が、気づいた時には、そこにあった。鉤型に曲げられた男の子の指が、わだちの頭からわずかに、ほんのわずかに離れた位置で静止していた。
「ダメ、ウロ。この子はね、生きようとしただけなんだから」
「しかし、すすぐ」
「ダメ」
女の子の声は、なおも凛としていた。強い意志。その意思に押されるようにして、無言のまま、男の子の手が下がった。男の子の手によって塞がれていた視界が、開ける。わだちが、女の子の手を舐めていた。その舌の先には、彼女自身の牙が流した紅い雫の痕が見られた。甘えるように、詫びるように傷口を舐め続けるわだちのその舌の動きを見ながら、私は思っていた。
彼女じゃない。彼女が噛まれてしまったのは、きっと、偶然だ。ただ目の前に、とつぜん現れた為に、勘違いしてしまっただけだ。わだちが噛もうとしたのは、彼女じゃない。
彼女では、なく――。
「ね、付いてきて」
いつの間にか男の子が、女の子の乗る車椅子の取手を握っていた。わだちを抱えたまま彼女と、彼女の車椅子が山を登っていく。ちらと、わだちが私を見ているのに気がついた。考えている暇はなかった。私は、彼女の後を追いかけた。急ぐほどではなかったけれど、のんびりとした歩調でよいという程でもない。少し息を弾ませながら私は彼女と、彼女の車椅子を押す男の子の背中から離されないよう足を動かした。そして――やがて私は、開けた場所で光を浴びた。
「こっち」
わだちを片手に抱えた女の子が、手招きする。一度は忘れかけた足の痛みにもだえながら、私は彼女の側へと寄った。彼女が指を突き出す。その突き出された先を、私は見る。眼下には、私たちの暮らす双見の西が広がっている。
「私ね、この場所が月山で一等好きなの」
小さく、遠くに見える私たちの双見。ここからの眺めだとまるで別の町のようにも見えるけれど、それでもそこには見知った場所が、確かに見つけられた。私の家も、あの辺りだろうと見当をつけられた。もう、お母さんのいなくなってしまった、あの家。
「ここにいるとね、生きてていいんだって、そんな気持ちになれるんだよ」
母のことに傾きそうになる私の思考が、彼女の言葉に引き戻される。
「生きてて、いい?」
「うん!」
生きてて、いい。
そういって微笑む彼女の顔は陽光に照らされて、とても眩ゆい。けれど私には、彼女の言葉の意味がいまいち理解できなかった。生きてて、いい。けれどお母さんは、死んでしまったのだ。もう、生きてはいないのだ。生きていない人は、生きてては、いけないのだ。だから私には彼女の言葉が白々しく、都合の良いもののように感じられた。
ただ――ただ、彼女の笑顔の眩さから目を背けることができなかったのは確かで。
「ウロ」
女の子が、車椅子から身を乗り出して。
「どこ行くの?」
背を向けていた男の子が、顔だけをこちらに向けて。
「薬を取ってくる」
抑揚のない、平坦な声だった。
「大したことないよ、こんなの」
「ダメだ」
「なんてことないのに」
「ダメだ」
「わからずやー」
「それでいい」
言って、男の子は走り出す。車椅子を押して山道を登った疲れなんて微塵も感じさせない、山の動物のように軽快な足取りで。
「いっつもね、こうなんだ」
向き直った女の子が、呆れたような顔をしながらそれでも抑えきれないようにくすくすと笑う。うれしそうに。なぜだか、胸がどきどきする。
「ね、聞かせて」
「……なんの、こと?」
「どうして御山を登っていたの?」
「……」
「ね」
「……私」
「うん」
「……私、私は、お母さんが――」
お母さん。双見の外から来たという、お母さん。何処となく都会の洗練した空気をまとっていたお母さんの匂いが、私は好きだった。その匂いに包まれているときだけが、本当の私になれる、本当の時間だと感じていた。だけどお母さんは、私を置いていってしまった。お祖父ちゃんが倒れて、家の中がぴりぴりするようになって、お母さんも家の中でじっとしている訳にはいかなくなってしまったから。
私はお母さんが好きだった。お母さんを困らせたくなかった。だから私は、何もしなかった。何も言わなかった。何も訴えなかった。甘えたい、抱きつきたい、匂いに包まれたい。そう思っても、焦がれても、外へ出掛けるお母さんを止めなかった。お母さんを止めてと、お父さんに願うこともしなかった。お母さんが、家族のために働いてくれているって、判ったから。お祖父ちゃんの仕事を継いだばかりのお父さんと――私のために寝る間も惜しんでいるんだって、判ったから。だから私は、我慢した。甘えることも、抱きつくことも、匂いに包まれることも我慢して、いつかみたいに、お祖父ちゃんが元気だった頃みたいに暮らせる日がもどってくることを、わだちと一緒に待っていた。そして、そうして――。
そうしてお母さんは、燃えて、灰になってしまった。文字通りの、灰に。灰となったお母さんからは、もう、あの大好きだった匂いが漂うことはなかった。二度と、なかった。お母さんはもう、廻らない。神様と、重なってしまったから。私のいないところに、行ってしまったから。
私は話した。お母さんのことを、お母さんに会いに来たことを、車椅子の彼女に話した。私は泣いていた。涙が流れて止まらなかった。息することができないくらい、苦しくなるくらい、私は泣くことに溺れていた。二度と嗅ぐことのできないお母さんの匂いに溺れていた。
「……不思議だね」
一言も口を挟むことなく私の話を聞き続けていた彼女が、ぽそりとつぶやいた。視界を歪める涙を拭い、彼女を見る。水の中みたいにぼやけた視界のその奥で、彼女と彼女の車椅子とがゆらめいていた。
「私のお母さんもね、ついこの前、死んじゃったんだ」
事も無げに、彼女は言った。私は何も言わなかった。何かを言おうにも、何かを見ようにも、私はまだまだ溺れていたから。時間をかけて、息を継いだ。水面へ、頭を浮かべた。屈折していた光が、瞳の奥へと差し込んできた。陽光が、目に入った。私を覗き込む彼女は、微笑んでいた。
「どうして……?」
彼女が首を傾げる。
「どうしてそんなふうでいられるの……?」
声の震えが判る。
「どうして泣かないでいられるの……?」
洪水が、再び迫り上がっているのを感じる。
「どうして、笑えるの……?」
決壊が間近にあるのを理解する。
「どうして……」
お母さんの匂いを、幻嗅する。
「私にはね――」
匂いが、重なった。
「ウロが、いるから」
陽光に相応しい、明るい声が聞こえた。
「ウロ……?」
「さっきの、ぶあいそーのこと」
言って彼女は、彼方を見る。薬を取りに行くと言って、何処かへと駆けていったあの男の子を追うように。
「ウロはね……私の、自慢のお兄ちゃんなの」
そういう彼女の声はやわらかで、暖かで。それで、それだけで、私は理解した。彼女の、ウロという人への感情を。どれだけの想いを抱いていて、どれだけの信頼を寄せているのかを。私は、理解した。
彼女の、陽光の秘密を。
「いいな……」
知らず、言葉がこぼれ落ちていた。
「私には、誰もいないもの……」
こぼれ落ちた言葉は、切れることなく落ち続けた。私には誰もいない。お母さんの匂いを嗅ぐことも、もうできない。お祖父ちゃんに守ってもらうことも、もうできない。それに、きっと、あの人だって――。
「誰も……」
彼女の腕に収まるわだちがじっと、私を見ていた。くりんと丸い黒目。私はそこに、私を責める視線を見た。最後に残された、私の妹。彼女にも見捨てられた。彼女も私を置いて逃げた。だけど、それも、仕方ないのかもしれない。だって私が、お母さんを殺したのだから。私がいたから、お母さんはがんばりすぎて、燃えて灰になってしまったのだから。私がいなければ、お母さんは灰にならなかったのだから。だからわだちは、私を責めるのだ。その丸い、くりんとした黒目で、一人で謝りに行く勇気も持てない私を責めるのだ――。
わだちの瞳が、視界から消えた。
「え――」
車椅子の彼女が、車椅子から立ち上がっていた。腕のうちに抱えたわだちと一緒に。彼女が、笑った。笑って――そしてそのまま、ゆっくりと、直立したまま、傾いた。傾いた彼女のその先には、双見があった。私たちの双見。下方に広がる西の町。
彼女は、落下しようとしていた。双見に向かって。落ちれば免れ得ない――死に向かって。
考えるよりも先に、身体が動いていた。つかんでいた。引き寄せていた。転がっていた。抱き寄せていた。止まっていた。横たわっていた――私も彼女も、ここにいた。彼女が「生きてて、いい」といったこの青い芝生の上にいた。
彼女が、笑った。
「私はすすぐ。
笑う彼女は、けれど少し、震えていて。
「……お、おもや。
「おもや」
それでも彼女の陽光は、一切の陰りを見せなかった。震えていても彼女は――すすぐは、変わらずにすすぐだった。
「あのね、おもや。ウロは、本当はウロじゃないの」
彼女の言葉を、私は聞く。
「私だけが知ってるの。ウロの本当のこと、本当の名前を。ウロはいまはウロだけれど、いつかはきっと、本当の自分を知りたくなる。いつかのその時が来たら、私は彼に思い出させてあげなきゃいけない。私は、そのためにいるの。でもね――」
彼女の言葉を聞きながら、私は思い出す。お祖父ちゃんから教わった、双見の信仰を。月俣男ノ神と北俣女ノ神。二神で一柱の、その背を互いに共有する双子の神様のことを。
「私、本当は怖いんだ。置いていかれてしまうんじゃないかって。本当のことを知ったウロは、私なんか忘れて、どこか遠い所へ行っちゃうんじゃないかって。だからね――」
遠くを見つめていたすすぐが、顔を寄せてきた。私のおでこと彼女のおでこが、触れる。
「いつかのその日、私がウロに本当の名前を告げるその時」
おでこを通じて彼女の熱が、私の裡へと伝わってくる。
「一緒にいてほしいの、あなたにも、この場所に」
熱と共に、熱以外のものも、伝わってくる。
「もし私が臆病なままでいたら、その背を押してほしいの。あなたがいま、落ちかけた私を引っ張ってくれたみたいに」
それでも、よぎる。匂いと灰とが、脳裏に、よぎる。
「私で……いいの?」
「あなたがいい」
彼女の熱が、硬い私の壁へと浸透していく。
「あなたと……この子にも」
私と彼女の間で、何かがもぞりと蠢いた。わだち。わだちの黒い瞳が、私の目の前に現れる。黒い瞳が、私の奥をじっと見つめる。匂いのない灰の臭いが、眼下の底で燻り漂う。
「おもや」
わだちの顔が、私へと近づけられる。怖かった。手を伸ばしてしまえば、その瞬間に審判は下される。それが怖かった。いずれの結果であったとしても。このまま、曖昧なまま、いまを引き伸ばしてしまいたい。わだちの黒い瞳から目を背けたい。そう思う私が、確かにここに存在している。でも――。
『廻り、なぞり、重なり弾け、また廻る』。お母さんのお葬式で、何度も聞いた呪文。死を連想させる呪言。過ちに迫る呪音。ついさっきまでは、それだけだった、それ。でもいまは、違う。これは、神様と手を繋ぐための言葉。わだちの後ろには、私を見つめる、すすぐの微笑み。皮膚を通じて、香りを嗅いだ。やさしい匂い。お母さんのものとも違う、太陽の、これは――陽だまりの、匂い。
わだちに向かって、手を伸ばした。
「……もう、ひとりじゃないよね」
わだちは逃げ出さなかった。逃げ出さないでくれた。腕の中に収まって、ふんふんと鼻を鳴らしながら私の匂いを嗅いで、それで、安心したように、身を預けてくれた。機嫌良く笑うすすぐが、触れたおでこを更に擦り付けてくる。今更ながらに恥ずかしくなった私は彼女から逃れるように身を丸めて、丸まる私の中で丸まるわだちに、そっと耳打ちをした。
ねえわだち。私たち、神様と約束しちゃったよ。
二 下山おもや
これが、私とすすぐとの出会いでした。彼女のことを本気で神様だと信じ、神様と約束を交わしてしまったのだと本気で信じた、私を形作る上で欠くべからざる転換点となる出来事。それは私にとって、必要な体験でした。大げさではなくあの時のあの記憶が、約束が、母を失ったばかりの私にとって生きる支えとなったのです。彼女が実は神様なんかではなかったと知った、その後においても。私は思い出します。三年前の、あの事件のことを。神隠しの噂から始まった……こうしていま、日記を認めていることが信じられないような、あの事件のことを、私は思い出します。思い出します、すすぐと再会した日のことを。憧れと彼女とを混同していたあの頃のことを。ただあの約束だけが私と彼女をつなぐ絆だとすがりついていた、一三歳の時分の私のことを――。
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