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 街の明かり。ネオン。人の感じ。タクシーとか、そこらへんの車。

 この感じが、好きだった。言い表しにくい。なんというか、雰囲気。そう、雰囲気が好き。この街の、なんとも柔らかくとけ込んでしまうような感じが好き。

 好きなものは、守りたくなる。こんな夜中に、ぼけっと街をふらつきながら、何か変なことが起こってないか確認していく。この街では、ときどきわけの分からないことが起こる。その度に街の勢力総出で対処したり、ときには官邸とかとばちばちにやりあったりする。そうやって、この街の平和は守られてきた。

 自分も、その、街を守る勢力のひとつ。正義の味方なんて言われているが、しょせんは街のことが好きなだけの市民にすぎない。

 彼女も、この街のどこかにいる。街も好きだが、彼女も好きだった。

 彼女は不思議な女で、なかなか出逢えない。これも言い表しにくい。とにかく、ときどきしか逢えない。同じ部屋に住んでるし、彼女のことは分かる。理解してる。だけど、彼女には、ときどきしか逢えない。彼女がいない。きっと、彼女の側では自分がいないということになっているんだろう、たぶん。

 逢えなくても、繋がっている。彼女は、この街にいる。彼女も、この街にいる。自分が好きな街に、自分の好きな女がいる。それならそれでいい。多くを望みはしない。

 ただ、いつも一緒にいたいなとは、思うけど。

 今日も街は平和。見回りを同僚に引き継いで。さて。帰りますか。



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