№99・やり直しの鉱石・7
空が青い。そんな当たり前のことにこんなにもほっとするなんて。
「……あれ!」
メアが指さした先には、徐々に地上に降りてくるメルランスの肉体があった。魔法陣のあったところまで落ちてくると、南野たちは急いで周りを囲んだ。
ひと目でわかる。もういのちはない。
紙のような白い顔色に、青ざめたくちびる。メルランス特有のはつらつとした気配はすっかり消え失せ、頬にはらりと後れ毛が落ちた。
「……メルランスさん……!」
彼女の遺体を見て、南野の中に言い様のない感情が吹き出す。かなしみでもない、怒りでもない、ただ限りなくウツロに近い感情だ。
胸にぽっかりと穴が開いたようだ、とはこのことか。
泣くことも忘れて、南野は彼女のそばにひざまずいた。
「……ごめんなさい」
小さく謝り、肩を落とす。いくら割り切っていたとしても、この別れは想定していなかった。さよならの言葉さえ言えなかった。
後悔ばかりが胸を締め付ける。
せめてきちんと埋葬できるところにメルランスを連れて行こうと、彼女の軽いからだを抱き上げたそのときだった。
「つぎゃぁぁぁっぁぁぁぁ!!」
キリトの声が響き渡る。
「ワレ、こげんときになんば言いよっとか!?」
「ちょっと待ってください!」
キーシャがキリトの額にくちばしをぶっ刺している鳥のような生き物を引き抜いた。
「これ、スカベンジャーですよ! きっと魔界からの遣いです! ほら、これ! 『フェニックスの尾羽』が!」
「それじゃあ……!!」
枯れ果てた南野のこころの砂地に、雨がしみ込み、花が咲いていく。
メルランスはよみがえるのだ。もう別れの挨拶ができなかったことを悔やむ必要はない。
南野はすぐさま『フェニックスの尾羽』を受け取った。『オーバーシンクロ』の金色の光がきらめき、羽をメルランスの胸に置くと、みるみるうちに顔色が元に戻っていく。
ややあって、メルランスはゆっくりと目を開いた。
「……あれ? あたしは……?」
「メルランs」
「メルランスさぁぁぁぁぁぁん!!」
南野がよろこびを爆発させる寸前で、キーシャの方が先にメルランスに抱き着く。すっかりタイミングを逸してしまった南野は、決まり悪げにもごもご言うばかりだった。
「よがっだぁ、よがっだぁぁぁぁぁ!!」
「どうやらあたしはくたばってないみたいだね……こらこらキーシャ、鼻水つけないで」
泣きながらメルランスに抱き着くキーシャを引きはがしながら、彼女はよろけつつ立ち上がった。
「……っと。割と五体満足でよかった」
「ふっ、いのち拾いしたな、女」
「うっさい、ジョンのくせに」
「ジョンって言うな!!」
「よかったのぅ、メルランス。タマぁ取られんと」
「うん、ありがと、メア」
涙ぐむメアの頭をぽんぽんと撫でてから、メルランスは南野に向き直った。
「ただいま、南野」
「おかえりなさい、メルランスさん」
そう言葉を交わし合うと、メルランスは勢いよく南野に抱き着いてきた。たまらずよろけて尻もちをつく南野は、押し倒されるような格好になる。
「わぁ、メルランスさんだいたーん!」
「甘すぎて見とれんわ」
「デレッデレだな、女よ」
「いいじゃん! せっかくの復活記念なんだから!」
「……ふ、」
連続するいつも通りに、南野の中の緊張の糸が切れた。
「あははははははははは!!」
「ちょ、どうしたの南野!?」
「なにかおかしいところでもありました?」
「あはは、いえ、なんというか、こういう締まらない感じが俺たちらしいな、って……」
「言われてみればそうだな」
「けどまあ、こういう大団円もアリじゃろ」
やがて、みんな揃って大笑いすることになる。
かくして、『終末の赤子』による世界の崩壊は食い止められた。
壊れてしまった街や死んでしまったひとたちなど、取り返しのつかないことは山ほどある。
が、最悪のバッドエンドには至らなかった。
そのしあわせを噛みしめながら、南野たちは飽きるまで笑い続けた。
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