第25話 宿星の儀式 (8)

「――これは!?」

「どうしたのですか? リディル」


 リディルの異変に気づいたのはウルピナだった。杖を握り締めたリディルは、小刻みに身体を震わせている。リディルの顔は血の気を失って青白く、次の瞬間に倒れてもおかしくない。そこにリディルの異変に気づいたアルドがやって来た。


「どうしたんだ?」

「アルド殿! とても強い闇の力を感じます! 間違いない――これは深淵の闇の王の力です!」

「なんだって!? どこからだ!?」


 上げられたリディルの指が扉を指し示した。銀の鎖と神聖魔法の護符で、再び閉じられたあの扉は、先程エメルとミーミルが入っていった所だ。聞こえるはずのないエメルの悲鳴が、聞こえたような気がした。エメルが危ない――! 直感が稲妻のように閃いて、アルドは扉の前まで走り、銀の鎖に手をかけた。


「いけませんアルド殿! 扉には神聖魔法がかけられています! 神官ではないあなたが結界を解くことはできません! 強引に破ろうとすれば、聖なる光に焼き尽くされてしまいます!」


 リディルが制止する声はアルドの耳に届かなかった。いますぐにエメルを助けに行きたいのに、扉に張られた結界が行く手を阻む。早く行かなければ最悪エメルが死んでしまう。焦燥に歯噛みしたそのときだ。心臓の辺りが焼けるように熱くなり、身体の奥深くから力が溢れ出てきた。


(なんなんだこれは――)


 いきなり溢れた力を感じ取ったアルドは戦慄した。闇の塊のような邪悪な力で、少しでも気を緩めると取り込まれてしまいそうだ。でも――この力を使えば結界を破れる。制御できるかそれとも力に取り込まれるか。まさに一か八かの賭けだったが、アルドの答えは最初から決まっていた。


 深呼吸をして目を閉じたアルドは、力が溢れ出る場所に精神を集中させた。脳裡に川の流れを想像して、力が右手にへと流れていくように慎重に導いていく。そして次の刹那――アルドの右手から漆黒の雷が迸り、銀の鎖と神聖魔法の護符をすべて焼き焦がした。


「神聖魔法を破るなんて、あなたはいったいどうやったのですか……?」

「それは俺にも分からねぇよ! そんなことより早く2人を助けに行くぞ!」


 呆然とするリディルに怒鳴り返し、扉を押し開けたアルドは、先陣を切って螺旋階段を駆け下りる。地下に向かって駆けていくなかアルドは、不安が暗雲のように覆いかぶさってくるのを感じていた。

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