第24話 宿星の儀式 (7)

「おまえを独りで行かせるのは不安だけど、ここは司祭様の言うことに従ってくれ。大丈夫だ。なにかあったらすぐに駆けつけるからよ」


 エメルが見上げたアルドは快活に笑った。騎士団のみんなを見回すと、オライオンたちは「任せておけ」というふうに頷いてみせた。

 ――そうだ、自分は独りじゃない。家族の魂とアルドたちが側で見守ってくれている。それに自分はこんなところで立ち止まってはいられないのだ。アルドたちに頷き返したエメルは、扉の前で待つミーミルのほうに振り返った。


「準備はよろしいようですね。それでは参りましょう」


 中空で印を結んだミーミルが呪文を唱えると、触れてもいないのに鎖が床に落ちて、護符も風に舞う木の葉のように床に舞い落ちた。厳かに開かれた扉の奥には、洞窟が広がっており、地下へと続く螺旋階段が渦を巻いていて、松明が辺りを赤々と照らしていた。


 どれくらいの時間が過ぎたのか分からないほど、エメルは螺旋階段を下り続けた。黙々とただひたすら足を動かし続けていると、青白い光が下のほうに浮かび上がった。ミーミルが言うには、もうすぐ目的地に着くらしい。そしてやっと最後の一段を下りると、こことはまた違う景色が広がっていた。


 そこは鍾乳洞だった。悠久の時間を得て作られた、動物の牙のような灰色の石柱が、天井から垂れていて、奥には清らかな泉が湧き出ている。

 吹き抜けの天井から見えるのは、青白く輝く女神の星だ。泉の中心には銀の台座が置かれていて、アストライアはその上に安置されていた。


「ミーミルさん。私はなにをすればいいんですか?」


「難しいことはなにもしません。アストライアに触れて、語りかけるだけでよいのです。あなたの思い、そして意思が伝われば、アストライアはあなたに力を貸してくれるでしょう」

「――分かりました」


 ミーミルに頷いたエメルは、泉に向けて歩みを進めた。澄んだ冷たさの泉の水に足を浸すと、身も心も清められていく感じがした。

 水面に静かな波を走らせながら、エメルはアストライアへと近づいていく。手を伸ばせば届きそうな距離まで近づいたとき――水面に黒い影が滲むように広がり、水が盛り上がって何者かが立ち上がった。

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