第22話 宿星の儀式 (5)
ヴァンシュネール城の真向かいにある星の大聖堂は、星の女神アリナリアが最初に降臨した場所に建てられたと言われており、救いを求めて世界中から多くの人が訪れる。苦しむ人を救済して、そして迷える人たちを安寧と幸福に導く大聖堂は、世界中の人々の心の拠り所となっているのだ。
神官たちに案内されて入った聖堂の中はとても美しかった。聖堂を支える白亜の円柱には、12の創世神話をモチーフにした絵が精巧に彫られていて、左右に並ぶ窓には虹色に輝くステンドグラスが嵌め込まれている。その中でもエメルの目を惹きつけたのは、葉を生い茂らせた大樹を描いたステンドグラスだった。
「すごい大きな樹――」
「それは世界樹ユグドラシルだよ」
エメルの独り言に答える者がいた。肩越しに振り向いてみると、少し離れたところにセイリオスが立っていた。セイリオスは立ち止まったエメルの隣に来ると、彼女を魅了したステンドグラスを見上げた。
「ユグドラシル――?」
「神の言葉で『主神の馬』という意味らしい。天上、地上、地下にあるすべての世界を支えていると言われている。森の妖精エルフの始祖は、世界樹と交わった風の女神から生まれたとされているんだ」
「そうなんですか――。セイリオスさんって、すごく詳しく知ってるんですね。勉強になりました」
「いや、たいしたことじゃないよ。本で読んで覚えた内容をそのまま言っただけだ」
ステンドグラスを見上げるセイリオスの横顔を、悲しみという名の暗い影が走り抜ける。自分はなにか悪いことを言ってしまったのだろうか――。そんなエメルの不安が伝播したのか、彼女の視線に気づいたセイリオスは、少しぎこちなかったけれど微笑んだ。
「騎士団の皆様、お待たせいたしました。司祭様の準備が整いましたのでご案内いたします」
次にエメルたちは、聖堂の1番奥にある銀の扉の前に案内された。左右に控えていた神官2人が扉を開けて、エメルたちを扉の中へと導く。真紅の絨毯が敷かれた廊下を、神官に従って真っ直ぐに進んでいくと、荘厳な空気に包まれた場所に出た。
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