第21話 宿星の儀式 (4)

「クラリオン王国の騎士として――王子として約束する。エメル、俺は絶対に死ぬような真似はしない。この心臓を燃やし、命尽きてこの身が朽ち果てるまで、魂が光の国に昇るその日まで、必ずおまえを守りぬいてみせる」


 顔を上げたエメルの目に映るアルドの面持ちは、別人のように凜として高潔だった。金糸が刺繍された紫紺のマントを身にまとい、クラリオン王国の紋章が彫られた、白銀の胸当てを着けたその姿は、王子と呼ぶに相応しいだろう。


「そうですよエメル殿。アルド殿はそう簡単には死にません。火で焼かれて雷に撃たれて凍り漬けにされても、何度でも地獄の底から這い上がってきますよ。僕が保証いたします」

「――っておいリディル! 人を怪物みたいに言うんじゃねぇよ! せっかく格好良く決まったのに台無しになっただろ!」


 振り返ったアルドがリディルに文句をぶつけた。不満に唇を尖らせる姿はまさに幼い子供。ついさっきまで凜々しく高潔に見えていたのが嘘のようである。そして気づくとエメルは、泣くのも忘れて鈴を鳴らしたような声で笑っていた。


 エメルの笑い声はアルドたちにも伝播して、さながら一斉に花が咲いたように、部屋は明るい笑い声に包まれる。心の底から思いきり笑ったあと、エメルの心は雨上がりの空のように、綺麗にすっきりと晴れ渡っていた。


「どうやら元気になったみたいだな」

「――はい。アルドさんのお陰です。あの……好き勝手言ってすみませんでした」

「別にいいって。おまえが元気に笑ってくれるなら、俺はなんでもやってやるよ」


「貴公の笑顔を見て私も安心したぞ」


 エメルのところに来たのはレオミノールだ。国王陛下のお出ましに、エメルは慌てて涙を拭いて背筋を伸ばした。


「レッ――レオミノール陛下! みっともない姿を見せてしまい、本当に申し訳ありませんでした!」


「いや、貴公が謝る必要などない。人間は豊かな感情を持つ生き物。悲しいときは大声で泣き、嬉しいときは手を叩いて笑うのが当たり前なのだ。だから私は貴公の姿をみっともないとは思わんぞ。最後になってしまったが――エメルよ、もう大丈夫なのだな?」


「陛下――ありがとうございます」

「国王ゆえ私は城を離れられんが、貴公は必ずアストライアに選ばれると信じている。宿星の儀式、無事に成功できるよう祈っているからな。皆の者、全力でエメルを守るのだぞ!」


 レオミノールの激励の言葉にエメルたちは頷いた。もうエメルの頬に涙はない。自分を思ってくれるみんなのために、アストライアの継承者になってみせる。燃える決意の火を胸に宿して、エメルはアストライアが待つ場所へと歩みを進めた。

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