第20話 宿星の儀式 (3)
「元気になってくれて本当によかった――! 私、ずっとアルドさんに会いたかった! 会ってごめんなさいって言いたかったの! だって私を庇ったせいで、アルドさんは大怪我をしたんだもの! ごめんなさいアルドさん! ごめんなさいっ――!」
「俺はこのとおり元気になったからもう泣くなよ。これ以上泣くと、兄上から貰った儀礼服が汚れちまうぞ。――俺は生きていまここにいる。それでいいじゃないか」
「全然よくないですっ! 私のせいで死にかけたのに、それでいいじゃないかだなんて、簡単に思えるわけないじゃないですか! 兄様みたいに死んでしまったらどうしようって、ずっとずっと怖かったのに! それなのに、なのに、そんな呑気なことを言うなんて! アルドさんの馬鹿! ばかばかばかっ!」
エメルは握り締めた拳でアルドの胸を叩いた。アルドはなにも悪くない。大怪我から回復してエメルを迎えに来ただけで、胸を叩かれて馬鹿と罵られる謂れはアルドにない。だからいま自分がしているのは、幼稚な八つ当たりだと言えるだろう。
それは分かっている。ちゃんと頭で理解している。けれど駄目だった。理性よりも先に感情が身体を動かしてしまう。次から次へとあふれ出てくる感情を、エメルは抑えることができなかったのだ。アルドの胸を叩くのをやめたエメルは、伏せた顔の陰で大粒の涙を零した。
「――悪かった、エメル。おまえがそんなに苦しんでいたなんて知らなかったよ」
顔を伏せて泣くエメルの耳にアルドの声が落ちてくる。エメルが耳にした声の調子は少し沈んでいて、アルドが後悔しているのだとエメルは気づいた。
「おまえを不安にさせたことは謝る。シェダルにおまえを守ってくれって頼まれたんだ。約束を果たさないまま死ぬ馬鹿がどこにいるんだよ」
エメルの頭にアルドの手が落ちてくる。粉雪のように降ってきたその手は、うつむくエメルの髪を優しく指で梳いた。
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