第19話 宿星の儀式 (2)

「ではそろそろ参りましょう」

「はい」


 部屋を出たエメルはウルピナの先導で廊下を歩く。2人が向かっているのは、最初にエメルが案内された部屋――作戦会議室で、そこにレオミノールと騎士団のみんなが待っているのだ。会議室の扉が見えてくると、中から会話が聞こえてきた。


「アルド殿が触ったら結界が反応した――? ですが僕の張った結界は、闇の力を持つ魔物にしか反応しないはずです」

「魔法のことはよく分からないけどよ、結界が間違って反応したんじゃないか? おまえの魔法も完璧じゃないってことさ」

「腑に落ちませんが――その可能性はあるかもしれませんね。念のため、あとでもう一度結界を調べておきます」


 聞こえてきたのはアルドとリディルの声だ。アルドの声を聞いたその瞬間――エメルの鼓動は、胸を突き破りそうなくらい高く脈打った。


 ウルピナが押し開けた扉を通り、エメルは部屋に入った。リディルはいつものローブ姿だけれど、アルドたちは白銀の胸当てや鎧を身に着けていて、それぞれ砂色・紫紺色・深緑色のマントを羽織っている。エメルの物と似たデザインだから、あれは儀礼服に違いない。


 部屋に入ったエメルは、入り口で地面に突き刺さった剣のように立っていた。ややあってアルドの視線がゆっくりと動き、棒立ち状態のエメルのところで止まる。アルドと目が合った瞬間、エメルの鼓動はさらに大きく跳ね上がった。


「久しぶりだな。元気にしてたか?」


 微笑んだアルドに声をかけられたときだった。ずっと抑えていた気持ちが堰を切ってあふれ出し、エメルの背中を強く前に押したのだ。数歩走ったエメルはアルドに抱きつくと、白銀の胸当てで包まれた胸に顔を押しつけた。

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