第17話 城下町へ (5)
「セイリオス殿!」
聞き慣れた声が聞こえてエメルは双眸を開いた。目を開いてみると、そこはヴァンシュネール城の門の前で、焦燥した表情のリディルが走って来るところだった。エメルたちのところに駆けつけたリディルは、傷ついたアルドを見て驚愕に目を見開き、傷の深さに顔をしかめた。
「――これは酷い怪我だ。セイリオス殿、すぐにアルド殿を治療室に連れて行ってください。もしかしたら毒に侵されているかもしれません。念のために解毒の魔法をかけるよう、治癒術士に頼んでください」
リディルの指示を受けたセイリオスは、門番の手を借りてアルドを城内に連れて行った。
「あなたが無事でなによりです。闇の気配を感じたのでもしやと思い、セイリオス殿に飛んでもらったのですが――間に合って本当によかった。エメル殿、申し訳ないですが、儀式の日まで外出を控えてもらってもよろしいですか? それと部屋に結界を張ることを許していただきたいのですが――」
「結界……ですか?」
「はい。闇の力を持つ者の侵入を防ぐ守護の結界です。エメル殿が承諾してくれれば、これからすぐに結界を張ることができます」
結界を張ってくれるとはなんと心強い。エメルは躊躇わずに頷いた。
エメルの部屋の前に着くと、リディルは杖を水平に構えて、守護結界の呪文の詠唱を始める。リディルの詠唱が終わると、蒼く光り輝く輪と紋様が、水面の波紋さながらにドアに浮かび上がった。
「これで結界は張り終わりました。城全体に結界を張るには時間がかかりますので、もし城内で魔物に襲われたら、すぐにここへ逃げこんでください。守護の結界があなたを守ってくれますから。では――僕はアルド殿の様子を見てきます。くれぐれもお気をつけて」
エメルに一礼したリディルは、急ぎ足で廊下を引き返していった。リディルと別れて部屋に入ったエメルは、急に身体から空気が抜けるように力が抜けて、ドアにもたれかかるように座りこんだ。
(あのときアルドさんを守れるのは私だけだったのに、身体が震えて動けなかった……。挫けてなんかいられない、強くなって騎士団のみんなと一緒に戦うって言ったのに――)
アルドが襲われたとき、エメルが動けないように全身を縛っていたのは、恐怖でできた不可視の鎖。そう――傷ついたアルドを見てエメルは思い出してしまったのだ。アストライアに貫かれて血塗れになった、兄シェダルの姿を――。
強くなってみせると威勢良く言ったにもかかわらず、エメルは一歩も動くことができなかった。
こんな体たらくで、自分は本当にアストライアの継承者になれるのだろうか――。町に出かけたときの高揚感は消え去って、絶望を孕んだ虚無感がエメルの心に暗い影を落としていた。
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