第2章 剣と星の継承者

仲間を護るために、少女は剣を取る

第13話 城下町へ (1)

 星守の館を地獄の魔物に襲撃されて、アルドたちクラリオン騎士団に助けられたエメルが、ヴァンシュネール城で暮らすようになってから、はや数週間の月日が流れ去った。あれから地獄の魔物が現れることはなく、あの夜の惨状が嘘のように思える平和な日々をエメルは過ごしていた。


 城での生活に不自由はなにひとつなかった。国王レオミノールから、エメルの世話をするようにと言いつけられた侍女たちが、働き蟻さながらの立ち回りで、彼女の身の回りの世話をしてくれたからだ。おかげでエメルはなにもすることがなく、今日も城の中を歩き回っていた。


 そんな訳でエメルは毎日城の中を散歩しているけれど、城内の美しさにいつも目を奪われてしまう。

 柱や床はすべて白い大理石で作られていて、神話に出てくる神々や英雄の姿が彫刻されている。藍色の天井には金箔で作られた星座が散りばめられていて、窓から見える中庭には、色とりどりの花が鮮やかに咲き誇っていた。


 そしてエメルには毎日欠かさず訪れている場所があった。それは城の地下の奥深くにある部屋だ。その部屋の扉は強固な結界で守護されており、エメルが預けたアストライアが保管されている。そして儀式の数日前になると、アストライアは星の大聖堂に移されるのだ。


「おや――エメル殿ではないですか。なにかあったのですか?」


 エメルが部屋を目指して歩いていると、耳に心地良く響く穏やかな声が聞こえた。幻想的な藍色のローブを揺らして歩いてくるのは、クラリオン騎士団の魔術師リディルだ。青みがかった銀色の髪と藍色のローブを着たその姿は、さながら神話に出てくる神のように見える。


「えっと……その……なにかあったわけじゃないんですけど――」


 ほんのりと頬を赤く染めて、もじもじしながら言葉を詰まらせるエメルに、なにかに気づいたリディルは優しく微笑んでみせた。


「エメル殿。アストライアが心配で、あなたが毎日見に来ているのは存じています。ですが安心してください。いまさっき様子を見てきましたが、アストライアなら大丈夫でしたよ。部屋の隅々までくまなく調べましたが、地獄の者が侵入しようとした形跡も痕跡もありませんでした」


 微笑むリディルに言われてエメルの頬はさらに赤く染まった。そう――リディルが言ったとおりだった。アストライアの様子が気になってしまい、エメルは毎日ここへ足を運んでいるのである。

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