第11話 少女の決意 (5)

「いや――残念だがそれはできない。貴公のような幼い少女を、私は戦いに巻きこみたくないのだ。犠牲になった人々の無念は、私たちが必ず晴らしてみせよう。貴公の身の振り方は私が責任を持って考える。だから貴公はしばらくここにいてくれ」


 それはできないと言われてエメルは肩を落とした。望んではいない結果だとしても、エメルはレオミノールの言葉に従うつもりである。ただ――それだとエメルはアストライアを手放すことになってしまう。唯一それが心残りだった。


「――お願いがあります、兄上」


 次に声を出したのはアルドだった。みんなの視線がエメルからアルドに動く。アルドは数秒だけエメルを見やると、レオミノールに視線を戻した。


「宿星の儀式を彼女に受けさせてやってください。俺は彼女に家族の仇を討たせたい、彼女にアストライアを継承してほしいんです。もちろん最終的に決めるのは俺じゃないし、儀式でアストライアに選ばれないかもしれない。でも彼女には儀式を受ける権利がある。俺はそう思っています」


 さながら水面に広がる波紋のように、静かなるアルドの声が室内に響き渡る。腕を組んでアルドを見つめていたレオミノールは、目を閉じると深く考えているように沈黙した。そして目を開いたレオミノールは、大きく息を吐き出した。


「――分かった。エメルに宿星の儀式を受けさせようではないか」

「国王陛下――! ありがとうございます!」


 レオミノールは喜ぶエメルに微笑んだけれど、すぐにまた厳しい面持ちになった。


「ただしアストライアが貴公を選ぶとは限らんぞ。もしも仮に貴公がアストライアに選ばれたら、貴公は深淵の闇の王との熾烈な戦いに臨まなければならん。下手をすれば命を落としてしまうかもしれない戦いだ。私たちとともに戦いに臨む覚悟――貴公にはあるか?」

「はい。覚悟はできています。命が燃え尽きるそのときまで、私は戦い続けます」


 思いよ伝われと言わんばかりに、頷いたエメルは視線に力をこめて、レオミノールを真っ直ぐに見つめた。視線を重ね合わせて数分が経ったとき、レオミノールがエメルに頷いてみせた。


「貴公の覚悟、確かに伝わったぞ。戦い抜く覚悟ができているならば、儀式を受ける資格は充分あるだろう。エメルよ、昨日今日といろいろあって疲れただろう。あとは私たちに任せて、貴公は部屋でゆっくりと身体を休めるといい。アルファルド、すまないが彼女を部屋まで送ってやってくれ」

「お心遣いに感謝します、レオミノール陛下。それでは失礼します」


 レオミノールに一礼したエメルは、案内役に任命されたアルドと一緒に部屋を出た。長い廊下を幾度も曲がって、ひとつの部屋の前で立ち止まったアルドは、ドアを開けるとエメルのほうを振り向いた。

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