第10話 少女の決意 (4)

「初めまして、エメル殿。僕は騎士団の魔術師リディルと申します。エメル殿は天界と冥界の聖戦の物語を知っていますか?」

「星の女神アリナリアが率いる神の戦士と、深淵の闇の王が率いる地獄の魔物たちが戦って、戦いに勝利した女神が王を地獄の底に封印した――ですよね?」


 エメルの答えにリディルは頷いた。星の女神と深淵の闇の王との戦いの物語は、この世界に住む者ならば誰でも知っている。確か昔読んだ本によると、あまりにも苛烈な戦争で、世界の半分の大陸が人も住めないほど荒れ果ててしまったらしいのだ。


「エメル殿と御家族を襲ったのは、深淵の闇の王で間違いないでしょう。王はあなたの父君が守っていた星神具――アストライアを奪おうとしたのです。深淵の闇の王は星神具を恐れていますから」

「アストライアを――?」


 思わずエメルはアストライアを胸に抱き締めた。あの扉は一族の者しか開けられない。だから闇の王はシェダルの肉体を乗っ取り、そしてエメルを油断させて、アストライアを我が物にしようとしたのか――。襲撃の理由をようやく知ったエメルは、身も凍るような恐ろしさに身を震わせた。


「深淵の闇の王が復活したのならば、一刻も早くアストライアの継承者を決めなければ。奴が完全に復活すれば我々に勝ち目はないぞ。ウルピナ。すまないが星の大聖堂に行って、宿星の儀式の準備を進めるよう司祭に伝えてくれ」


 レオミノールの指示を受けて、ウルピナが急ぎ足で出て行った。

 互いに顔を突き合わせたレオミノールたちは、エメルの存在なんて忘れた様子で、意見を交わしながら作戦会議をしている。真剣に議論する彼らの邪魔はしたくなかった。だけれどエメルは彼らに聞いてほしいことがあったのだ。


「レオミノール陛下。私がアストライアの継承者になります」


 エメルが言ったその瞬間――声が止んだ部屋は水を打ったように静まりかえった。エメルに集まった視線は驚愕に満ちている。予想していなかったエメルの発言に、この場にいる誰もが驚いているようだった。


 エメルの心境はあのときとは変わっていた。あのときのエメルは惨劇に心を折られ、生きたいという意志は微塵もなかった。――だけれどいまは違う。アストライアを通じてシェダルの遺志を知り、襲撃された理由を知ったいま、命を絶たれた人たちのために戦いたいという意思が、はっきりと目覚めていたのだ。

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