第9話 少女の決意 (3)

 エメルが案内されたのは、国王がいるとされる謁見の間ではなく、作戦会議室のような部屋だった。

 正面奥の壁には世界地図が貼られていて、円卓の上には難しそうな書物や羊皮紙が、所狭しと積まれている。部屋にいるのは4人。誰もが緊張と真剣さをみなぎらせた面持ちでなにやら話しこんでいた。


「アルファルド! その者が例の少女か?」


 アルドに続いてエメルが部屋に入ったときである。耳に心地良く感じる、甘い低音の声が響き渡った。声が聞こえたほうにエメルが視線を向けると、鎧を着た1人の青年がこちらに歩いて来るのが見えた。


 威風堂々たる佇まいの青年だった。恐れを知らない勇猛果敢な活力が、全身にみなぎっているように感じる。白銀の鎧と真紅のマントを羽織った金髪の青年は、アルドたちとは明らかに、身にまとう雰囲気と風格が違っていた。エメルの正面で足を止めた青年は、蒼穹の色の瞳で彼女を見下ろした。


「まずは名乗らねばならないな。私はクラリオンの国王レオミノールだ。貴公の家族が犠牲になったのは私の判断が遅れたせいだ。貴公の家族を守れなかったことを、心から謝らせてくれ」


 レオミノールはエメルに向けて深く頭を下げた。一国の王に謝られたエメルは当然驚いたけれど、すぐに銀色の髪を揺らして首を振った。


「頭を上げてください国王陛下。騎士団の皆さんは危険を承知で私を助けてくれました。……大切な家族を失ったのは悲しくて辛いです。けれど私は兄に託された思いを胸に生きていきます。レオミノール陛下はなにが起こったのか知っているんですよね? お願いします。知っていることを私に教えてください」

「私もそのつもりで貴公を待っていたのだ。さあ、こちらに来てくれ」


 レオミノールに連れられて、エメルは部屋の奥へと向かった。円卓の前に来たエメルを、そこにいる4人が穏やかな表情で出迎えて、順番に自己紹介をした。団長のオライオン。青い髪の女性がウルピナ。そしてセイリオスだ。最後にエメルに自己紹介したのは、藍色のローブをまとった、青みがかった銀髪の青年だった。

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