第7話 少女の決意 (1)

 深い闇に沈んでいたエメルの意識が覚醒したとき、まず視界に入ったのは石造りの白亜の天井で、彼女は天蓋がついた豪奢なベッドに横たわっていた。


 上体を起こしたエメルは室内を見回す。天井も壁も星守の館とよく似た色だ。もしかしたらここは自分の部屋で、あの夜に起きた惨劇は悪夢だったのかもしれない――。一瞬そんな希望がエメルの胸に芽生えたけれど、あれは夢ではないとすぐに思いいたった。


 命を奪われる瞬間の人々の悲鳴。恐ろしい魔物の叫び声。変わり果てたシェダルと拷問される両親の姿。そしてシェダルを刺したときの嫌な感覚は、いまでもこの手にはっきりと残っている。だからどう考えても、あの夜に起きたことは夢ではないのだ。


(私だけが生き残ってしまったのね――)


 事実を再確認したとき、とてつもない喪失感と悲しみがエメルの心を抉った。独り悲しみに暮れていると、壁の外から誰かの足音が聞こえてきた。足音はエメルがいる部屋の前でとまり、少し間を置いて部屋の扉が静かに開けられた。


 扉を開けて入ってきたのは、あのときエメルを助けてくれた弓使いの青年――確か名前はアルドだったか。起きていたエメルと視線が合ったアルドは、なかなか部屋に入ろうとしなかったけれど、ややあって意を決したように部屋へ入ってきた。あのとき頬を叩いた罪悪感が、アルドを躊躇わせたに違いないとエメルは思った。


「目が覚めたんだな。具合はどうだ?」


 アルドの表情と声音は思いのほか優しかった。きっとエメルを怖がらせないように、努力して作り出したのだろう。


「大丈夫です。ここはどこですか?」

「ここはクラリオン王国のヴァンシュネール城だ。あのあとおまえは意識を失って、俺たちが城まで運んできたんだよ」

「そう――ですか。やっぱりあれは夢じゃなかったんですね」

「……ああ。残念だけれどそうなるな」


 あのときの惨状を思い出したのだろう。アルドは沈痛な面持ちでエメルに頷いた。数瞬の重い沈黙が流れたあと、アルドが口を開いた。

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