第5話 運命の始まり (5)

「シェダル! 大丈夫か!?」


 広間に駆けこんできたのは、大型の弓を構えた紫色の髪の青年と、細身の剣を持った金髪の青年だった。

 アストライアを持ったまま座りこむエメルと、彼女を包囲する魔物の群れを見やった弓使いの青年は、ここでなにが起きたのかすぐに理解したようだった。


「おまえ! そこを動くなよ! セイリオス! 援護してくれ!」

「分かった!」


 セイリオスと呼ばれた金髪の青年は頷くと、恐れることなく魔物の群れの中に飛びこんでいった。

 セイリオスが繰り出す剣撃の嵐に恐れをなした魔物たちは、蜘蛛の子を散らすように散り散りになった。その開けた道を弓使いの青年は、矢を撃ちながら一気に駆け抜ける。エメルのところに辿り着いた青年は、呆然としている彼女の肩を乱暴に掴んだ。


「おい! シェダルはどこだ!?」

「――死んだわ」

「……なんだって?」


 青年の切れ長の目が驚きで丸くなる。とても信じられないといった表情が、青年の強張った顔に浮かび上がった。


「お父様もお母様も、館のみんなも死んでしまったわ!! でもシェダル兄様は違う!! 私が兄様を刺して殺したの!! この剣で兄様を――」


 人間のものとは思えない奇声がエメルの言葉を断ち切った。魔物の1匹が高く跳躍し、いままさに剣を振り下ろそうとしている。標的がエメルなのは明らかだ。射撃が間に合わないと判断した青年は、エメルを押し倒すと守るように覆いかぶさった。


 剣先を下に向けた魔物の剣が、青年を背中から串刺しにするかと思われた瞬間――勢いよく回転しながら飛んできた斧が、魔物の頭を木っ端微塵に吹き飛ばした。魔物を粉砕した斧は、くるくると回りながら、入り口のほうに飛んでいった。


「アルド! 油断は禁物だぞ!」


 斧を肩に担いだ男性が広間に飛びこんできた。男性とセイリオスは、広間にいる残りの魔物をすべて一掃すると、エメルたちのほうに駆け寄ってきた。


「シェダルはいたのか?」


 青年はエメルを見やると、ちょっと考えてから答えた。


「いいえ。俺とセイリオスが来たときには、こんな有様でした。彼女の話によると――シェダルは死んだそうです」

「……そうか。館に火が放たれた。ここはもうだめだ。急いで逃げるぞ。お嬢ちゃん、立てるかい?」


 エメルの前に屈みこみ、優しく訊いた男性が手を差し出す。しかしエメルはその手を乱暴に振り払うと、涙に濡れた双眸で男性を見据えた。

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