第4話 運命の始まり (4)
「……早く! もうこれいじょう、『奴』を抑えておけないんだ!」
「いやです! この剣を渡したら、お父様とお母様、兄様も助かるのでしょう!? だったら――」
エメルの言葉は途中で途切れた。気づくとシェダルの苦しげな顔がすぐ近くにあった。それと同時に剣に重みがあることにエメルは気づいた。
下のほうに視線を動かしたエメルは目を見張る。エメルが握る淡い青色の剣は、シェダルの腹部を深く貫いており、傷口から大量にあふれる鮮血が、真紅の海のように地面に広がっていたのだ。
エメルの懐に自ら飛びこんできたシェダルは、手を伸ばして剣の柄を握ると、突き刺さっている剣をさらに深く押しこんだ。
「ごめんな……エメル……アストライアを頼んだぞ……」
最後の力を振り絞って、腹部から剣を引き抜いたシェダルは、剣をエメルに握らせると、礼拝堂で神に祈るように両膝をついた。
両膝をついた姿勢で動かないシェダルの下に、あの闇が瞬く間に広がっていく。そして両親が沈んでいった闇の中に、シェダルも飲みこまれていった。
闇に沈んだシェダルの代わりに現れたのは、骨だけの身体に鎧と剣を身に着けた、恐ろしくおぞましい姿をした魔物の群れだった。
本来目があるはずの場所にはなにもなく、黒く虚ろな穴がぽっかりと開いており、不気味な赤い光が、陽炎のように揺らめいている。
全身から放たれている敵意と殺意は、間違いなくエメルに向けられていた。魔物たちはエメルを殺してから、アストライアを手に入れるつもりなのだ。
だけれどエメルに戦う意思はなかった。我が身を犠牲にしたシェダルから、アストライアを託されたものの、家族の惨劇を目の当たりにしたエメルに、死にたくない、生きたいという渇望はなかったのである。振り上げられた魔物の剣が、エメルの首と胴体を切り離そうとしたときだった。
『降り注げ、紫電の稲妻! 悪しき魂を断罪の雷光で焼き焦がせ!』
声が響き渡ると同時に紫色の光が閃いた。次いで紫色の光をまとった矢が飛んできて、エメルを斬ろうとしていた魔物を背中から貫く。魔物を貫いた矢から、轟音を立てて稲妻がほとばしり、鎧ごと魔物を黒焦げにした。
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