第3話

「結婚してください」

 付き合い始めて2年になる和希が言った。いつも通りの明るい声で、だけどとても、真剣な面持ちで。私の誕生日だからと、腕によりをかけて作ってくれたディナーの後で、プレゼントがあるんだと、小箱を差し出して言った。中には指輪があった。

 ダイヤモンドが、きらきら輝いている。心臓が、バクバクいっている。こっちを見る和希の目が、私を見つめる黒い目が、緊張で満たされているのを感じる。

 私が返事を言う前に、和希がもう一度、口を開いた。

「美月、永遠の愛はないって言ってたの、覚えてる?」

「言ったね、そういえば。真奈美が世界記録で寝落ちした日だっけ」

「そうそう。ずっと考えてたんだけどさ、やっぱり俺は、そんなことないと思う。永遠の愛、なんて言い方はこっぱずかしいけど。誰かをずっと好きで、大切に思うことはあるって思うんだよ」

「そうかな……そうかもしれないね。うん、そうだといいな」

「うん。だからさ、証明してみせるよ」

「……どうやって?」

「それはもう、ずっと一緒にいて確かめてもらうしか」

「……わかった。そうする」

 目に雫がたまるのが分かったから、抑えようと思った。こんな幸せなはずの場面で、涙なんてふさわしくないと思うから。だけど、今度はこらえきれなかった。両頬をつたって、涙がこぼれていくのがわかった。

「え、ちょ、え、どゆこと?」

 和希が動揺している。そりゃそうだ。私も自身でさえ、あふれてくる涙に驚いている。

「わかんない、わかんないけど、うれしくて」

 プロポーズされて、うなずいて、指輪を受け取って。二人暮らしの部屋で、私はぽろぽろ泣いた。あふれる幸せをかみしめて、泣きながら、二人でたくさん笑った。

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見知らぬ指輪 @osenbey11

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