第十二話 特殊部隊

 二人が泣き止むのを待ち、俺達は桜子に連れられて、大きなリムジンの前に立った。


「あの……これに乗るんですか?」

「そうだが、何か問題あるか?」

「いやないですっ! も~お兄ちゃん、心配しすぎっ!」

「あんずちゃん、緊張しないの?」

「え? 全然。 むしろ楽しみですっ!」


 うわぁ、あんず、心臓強っ!

 普通なら緊張しまくって、声なんか出せなくなったり、動きがぎこちなくなったりしないのか?どこまでノーテンキなんだよ。やっぱり、普通じゃないな。


「Lie、任務は成功したのですね」

「あぁ。 椿、本部まで頼む」

「了解。 それでは皆さん、中へお乗りください」


 眼鏡に黒スーツのハンサムな男の人に促され、リムジンに乗り込んだ。

 思った通り、車内は高級感にあふれていて、なんだか落ち着かない。


「す、すごいね綾人くん。 緊張するなぁ」

「ほんとに。 肩が凝りそうだ」

「お兄ちゃん、あたし、リムジンで学校行きたい」

「お前、とんでもない発言するな」


 たっく。はしゃぎすぎてるな、あんずのやつ。


「ところで桜子さん、さっきLieって呼ばれてましたけど、あれは一体」

「コードネームだ。 うちはスパイ活動もしてるからな。 必須なんだ」

「そうなんですか」


 冬美が質問したことを、向かいにいる桜子は、淡い微笑みとともに返した。少しミステリアスな表情のせいか、変におどろおどろしく感じてしまう。

 俺も一つ、質問してみようかな。


「コードネームは俺達にも付けられるんです

か?」

「あぁそうだな。 今決めてしまおう」


 え?そんな簡単に決めていいの?なんか、手続きとか必要なんじゃ。

 つい、心配してしまう俺だが、思えば今目の前にいる人は団長という肩書きがあるんだから、特に問題は無いのか。

 桜子は、また例の姿勢、長い足を組んでしばらく考えたあと、眼力鋭くこちらを見た。


「よし。 綾人はOK、冬美はGT、あんずはIAで決まりだ」

「「「え?」」」


 なに、その安着なネーム。

 もっとこう、格好いいものとか無かったのかな。桜子だって、Lieって付けられてるし、柊とか銀木犀とかいろいろあるような。


「あの、名前の由来は」

「特にない」

「……変更は」

「受け付けない」


 冬美、あんずと次々に撃退される。

 ……かわいそう。


「それよりそろそろつくぞ。 準備しろ」


 俺と冬美に緊張感が走る。それと対照的に、あんずは目を輝かせ、わくわくと地の文字が見えてきそうな勢いだ。

 これ、小説のネタに出来そう。特殊部隊を中心とした話でも今度書こうかな。


「少し浮遊感が出るので気をつけてください」


 地下駐車場みたいなところに入っていくのを車内モニターが映し出したとき、運転手がそう言った。

 と、同時に、車用エレベーターにでも乗ったのか、少し弱めの浮遊感が身を包んだ。


「長いですね」

「地下五十階まであるからな」

「ご、五十!?」


 そ、そんなに!?日本にそんな深くまで建てているところなんて、あったんだ。

 にしても、こんな近くに特殊機関の建物なんてあったっけ?

 浮遊感が止まると、車から降りるように促された。

 これから、どんなことが待っているのだろうか。

 俺の心臓の鼓動は最高潮へと向かっていく。

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