第十一話 決意
そうだ。あのとき俺は母さんを、父さんを、お姉ちゃんを殺したやつをこの手で殺すと決めたじゃないか。
「犯人を自分の手で、殺すことはできますか?」
「もちろんだ」
「そうですか………………やります」
「え? ちょっと待ってお兄ちゃん!」
あんずは俺の腕をつかみ、揺さぶってくる。
やっぱり、反対してきたか。
「お兄ちゃんの復讐する姿なんて見たくない! ましてや、殺すところなんて……」
「でもそうでもしなきゃ、敵はとれない」
「じゃあ聞くけど、もし犯人に無事復讐できたとして、その先は? 途中で抜けることは
できるの?」
「どうなんですか? 夢野さん」
「ふむ」
桜子は一つ頷くと、少し長い足を組み、紅茶を口に運んだ。そして、ふっと短く息を吐き、
「あぁ。 二人の言うとおり、途中で抜ける
ことはできない」
「……やっぱり」
あんずは心配げな顔で俺を見てくる。冬美も眉をひそめている。
二人は行ってほしくないと思っているに違いない。それでも、俺は、
「それでもやりたいです。 ……決着を付けるために」
「貴様ならそう言うと思ったぞ」
桜子は不敵な笑みを浮かべた。
それはとても不気味に感じられて、身震いしてしまう。
「それで、冬美とあんず、お前らはどうする?」
「「やります」」
二人は即答した。でも、二人を危険なことに巻き込みたくない。
もう二度と、大切な人を失いたくないから。
「二人は入らないでくれ」
「やだ。 お兄ちゃんだけで入らせたくない」
「だめだ」
「でもあたしは」
「大切な人を死なせたくないんだ」
「っ!」
あんずは唇をかみしめて、やるせない表情をする。
こころがいたむけど、仕方ない。
俺はただじっと空中を睨む。そうしないと思い出して、泣きそうだ。
「綾人くん」
しばらく黙っていた冬美が、俺の両手を握ってきた。
「冬美?」
「私はね、綾人くんの気持ちはよくわかる。
大切な人を失いたくない気持ちも、苦しさ
も。 それでも、放っておけない」
「わかってるなら」
冬美は力を込めて、握ってきた。まるで何かをこらえるように。
「本当に綾人くんは、私が納得して引き下がると思った? 綾人くんだけ危険なところに行かして、私が安全なところで待つことを許すとおもった?」
「……」
俺はこれ以上反論することが出来なかった。なぜなら、冬美の目からは涙があふれていたからだ。
何でそこまでして俺を止めるんだろう。
「私は置いてかれるのはいや。 だから」
「分かった」
ここまでされたら断ることも出来ない。
せめてどこか危険なところに行くときは、安全なところで待たせよう。
冬美は俺の方に勢いよく顔を押しつけ、嗚咽を漏らす。
「お兄ちゃん、あたしも連れて行って。 家族だから、一緒に敵をとる」
「復讐するのはいやだったんじゃないのか?」
「お兄ちゃんはあたしがいないと危なっかしいんだから、仕方ないでしょ」
「その言われ用は心外だな。 でも、ありがとう」
あんずまでもテーブルに伏して、泣き始めた。
二人とも、泣き虫だなと心の中で思っていると、俺の頬にも涙が流れているのに気がついた。
あれおかしいな。なんで勝手に……男なのに、恥ずかしいな。
「じゃあ、三人とも入る、でいいんだな?」
「はい、お願いします」
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