第四話 ロックオン

 トントンと、階段を降りる音が二人分聞こえ、慌ててスマホをズボンに押し込む。


 「お兄ちゃん、出かけるよ~」

 「あいよ」


 再び俺の前に現る。あんずはボーイッシュな服装。いつも動きやすさを好むせいか、自然とそうなっている。

 そして、冬美は……


 「どう、かな。 この服」


 清楚で少し大人っぽさを感じさせる服装だ。このままゲームのPVに、に使えそう。芸能か二敗ったら大人気になりそう。ーー綺麗

 つい見とれていると、冬美の前にあんずが仁王立ちしてきた。


 「ま~たお兄ちゃん、黒のジーパンに、T

  シャツ!ほんっとにセンスないね」

 「だってこっちの方が落ち着くし。 それ

  にあんずだって、男の子みたいな格好ば

  っかだろ! この前男の子と間違われた

  ばっかじゃないのか」

 「むーっ! それはそれ! これはこれ!

  いちいちはなしすりかえない!」

 「すりかえてない!」

 「すりかえてる!」


 俺とあんずはついつい熱が入って、言い争いをしてしまう。

 何でか知らないけど、いっつもどうでもいいことでけんかしてしまう。あんずが理不尽なせいか。


 「ふふっ、相変わらず仲いいね。 二人と

  も」

 「「仲良くなんかない!」」


 という言葉が見事に一致してしまい、恥ずかしさで同時に下を向いてしまう。


 「別に、お兄ちゃんと仲良くなんかない

  し」

 「あんずちゃんツンツンしちゃって。 か

  ~わいいっ!」

 「ツンツンって、かわいいのか?」


 あんずに抱きつく冬美。そしてそのまま抱えて、玄関に向かおうとしている。


 「ちょっ! 冬美さん! 下ろして!」

 「え~、もうちょっと待って」

 「近所の人に見られたりしたら」

 「大丈夫大丈夫」


 冬美、今日はかなりテンション高いな。やっぱり恋の○生っていう動画に触れたからなのか?

 …………何者だ、恋○先生ってやつは。

 三人で固まって、町中を歩く。あんずは下ろしてもらってる。


 「あ、この店かわいい! 冬美さん、行こ

  っ!」


 「いいよ。……綾人くんは大丈夫? 中、

  女の子ばっかだけど」

 「大丈夫、特に気にしないよ」


 冬美がいるからと心の中で付け加える。面と向かって話すのは恥ずかしいって言うか緊張するって言うか。


 「ん?」


 冬美とあんずが店の中に入りかけたとき、後ろから視線を感じた。後ろを見てみるが、別に俺たちを見ている人はいなかった。

 でも変だな。たしかに、何かで突き刺されたみたいな視線を感じたんだけど。


 「綾人くんどうしたの~? 早く入ろう

  よ!」

 「おう」


 まぁ、気のせいか。

 俺は、ナイフのような視線の余韻を紛らわし、小走りで二人の元に向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る