第一話 日常

 朝6時30分頃、目玉焼きとハムが焼ける匂いと音でおなかを空かせる。それが風早家のいつもの風景だ。

 しかし、今日は違う。


 「綾人くん、ネギ切っといて」

 「了解」


 今日はゴールデンウィークという理由で、俺の彼女、高岡冬美が泊まりに来てるからだ。


 両親を早くに亡くし、妹と二人暮らしの俺を案じてか、長い休みの時は泊まってくれる。あちらの親御さんには俺たちが付き合っていることを知っていて、普通なら親不在で泊まりになんか行かせないだろうが、そこは冬美、もしくは俺、あるいは両方を信じているからか、泊まりに来てくれることを許可してくれている。


 「あんずちゃん、なかなか起きてこない      

  ね」

 「あぁ。 どんな夢を見てるんだか」


 あんずは連休初日から睡眠をむさぼっている

 まだまだ幼いやつだなと、心の中で苦笑している俺は、夜中までずっと起きていた。

 あんずと真逆のことをしたわけだ。


 「呼んでこようか?」

 「いや、俺が呼んでくるよ」


 切ったネギを冬美の近くに置き、2階へと向かう。

 冬美は料理がとても上手だ。さっきリンゴを切ると行ってたけど、あるいは彫るに近いかもしれない。リンゴを花形にしたり、小さな椅子とテーブルにしてみたりと、有名芸術家も顔負けのものを作ってくれる。


 「それに比べて、あんずは、味はいいけ

  ど、少し不器用だからなぁ」                   


 まぁ、それはさておいて、なかなか起きてこない我が妹の部屋に忍び足で入る。ベッドに近づくと、


 「ふにゃ、ロールケーキの山、食べきって

  やる……たらふく、むにゃ」


 なんとも幸せそうな表情で寝ている。起こすのはかなり、忍びない。

 どうしよう。起こすか、しばらく寝させてあげるか、悩んでいると、


 「むにゃ、ん?お兄ちゃんのおみあ

  げ? ……いらない、食べちゃお

  ……ふにゅ~」


 よし、起こそう。

 俺はすぐさま行動を起こした。あんずの右頬を指先でつまみ、ぐにゅーと引っ張る。

 ふむ。何度やっても面白い。


 「うにゅー…………あれ?お兄ちゃん?」

 「おはよう。 もう9時だぞ」


 あんずは目をぱちくりとし、照れたように笑う。

 寝起きのあんずって、まだ俺の周りをちょこちょこついてきていた頃に重なるんだよな。

 なんか、懐かしい。


 「ところでお兄ちゃん、いつまであたしの

  ほっぺ、触っているの?」

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