獏を飼う
眠
獏を飼う
僕のバクは偏食家だ。
甘くて楽しい夢ばかり食べるから、僕の見る夢は大抵ろくなものじゃない。今朝なんか、舞台の真ん中で弾けもしないウクレレを夢中で掻き鳴らす夢を見た。夢の中にいるんだから夢中なのは当然と言えば当然かもしれないけれど。ちなみに、観客は全員厳ついファイヤーダンサーだった。みんな終始無表情だったからすごく怖かった。
そんな僕の気も知らず、美味しい夢だけを食べる僕のバクはお陰様でまるまるもっちりとしていて、よくミニブタと間違われる。女子には可愛いともてはやされるけど、正直あまり嬉しくない。あんな三十年もののゴムボールみたいなやつの、一体どこが可愛いというのだろう。やっぱり女子の思考回路は理解不能だ。
クラスメイトの多くはこっそり自分のバクを学校に持ってきて、授業中に居眠りなんかしているけれど、僕の場合カバンに詰めるのすら一苦労だ。チャックが閉まらない。鼻を詰め込んだらしっぽが飛び出る。足を詰め込んだら目が飛び出たこともあった。あれこそまさに悪夢のようだった。現実でも悪夢を見せるなんて、なんてやつだ。
それでも僕だって授業中居眠りくらいしたいから、嫌でもあいつを連れていく必要がある。上手く折りたたんで、どうにかこうにかチャックを閉めて。毎朝一苦労だ。おかげで早起きをする習慣はついた。
僕の三つ前の席にいるやつなんか、自分のバクをペンケースに入れて持ち歩いている。信じられない。どういうことだ。彼は元から夢を全く見ないというのか。少年よ、大志を抱け! ってなんか、あの、有名な人も言ってただろう。
そんなことを考えている間に、もう次の授業。あぁ、僕の一番嫌いな時間だ。自分の進路を発表しましょう、だって。右端に座っているやつから順番に、将来の自分について発表している。
「私は将来、就職に強い大学に入るため日々勉強しています」
「私は大学には通わず、実家の煎餅屋を継ぎます」
「親の期待に応えられるよう、頑張って医師を目指します」
僕もみんなと同じように、当たり障りのない将来を考えて、語った。本当はあんな真面目な将来、これっぽっちも考えていないのだけれど仕方がない。「僕は将来ミュージシャンになって武道館でライブをしたいです」だなんて言ったら、みんなから白い目で見られて、先生に精神科の病院まで連れて行かれてしまう。将来中小企業の社員になりたいって口に出せるのなら、本気でそれを目指せばいいのに。それでも僕は家に帰るなり部屋に飛び込んで、高くて買えないギターの代わりに親戚のおじさんのハワイ土産にもらったウクレレをかき鳴らす。大して上手く弾けもしないのに。仕方がないじゃないか。僕のバクは偏食家。
好き嫌いせず全部きれいに食べてくれる他の子のバクと違って、苦くて辛い夢は全然食べてれないんだ。
獏を飼う 眠 @nemuru
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