第415話:忠義の騎士
「私は周囲の光素……光属性の魔素を取り込んで魔法を使うんだ」
ソレイユの右手が淡く光る。
確かにそこを注視してみると、魔力のような何かが彼女の右手に集まっていっている感覚があるな。
本契約はつつがなく終わった。
紋を刻む段階でかなりの快感を伴う……という話はどうやら異世界仕様の精霊でも変わることなくソレイユもかなり我慢していたようだったが、さすがは女騎士と言うべきかそこから色っぽい展開になることは残念ながらなかった。
いや残念ながらと言って良いものかどうかはわからんけども。
「光素ってのはどこにでもあるものなのか?」
「光があるところならどこにでも。太陽光が一番だが、月の光や火による光、魔法で発光しているところでも取り込むことができる」
「へー……便利だな」
つまり一部例外を除いたダンジョン内でも問題なく使えるわけだ。
光源のなさそうな洞窟型のダンジョンでも見通しが極端に悪くなることはないもんな。
なんでそうなっているのかウェンディに聞いたところ、そういうものだとしか言えないと答えが返ってきたのでもうそういうものなのだと納得するしかないのだろう。
「てことはほとんど魔力の消費はなかったり?」
「いや、光素と自分の……今は
そりゃそうか。
ほぼノーコストで魔法がばんばん撃てるわけはないと。
「珍しいタイプの魔法よね。フレアやウェンディお姉ちゃんもその場の火や風を利用することはあるけど、魔素を取り込んで混ぜてって手順は踏まないし」
何故かソファで横になりながら俺の膝で頬杖を立てているスノウが言う。
別に痛くはないのだが、もぞもぞ動くたびにこそばゆい。
「見たところスノウもかなりの……見たことがない程の使い手だが、その『フレア』や『ウェンディお姉ちゃん』という者たちも同じような技量を?」
「あたしが一番……って言いたいところだけど、ウェンディお姉ちゃんはあたしよりも強いわよ。フレアはまあ……同じくらいっちゃ同じくらいね。あたしの方が強いけど。シトリー姉さんもウェンディお姉ちゃんと同じくらいで、シエルも似たようなものかしら」
ソレイユの質問にスノウがしたり顔で答える。
双子ゆえにライバル視もしている(?)フレアはともかく、ウェンディやシトリーの強さに触れる時は誇らしげなんだよな。
ちなみに俺から見たら今挙がった5人の違いなんてほとんどわからない。
魔力の扱いという一点だけ見たらシエルが頭ひとつ抜けてるかな? というくらいだ。
年季の問題で。
本人に聞かれたらしばかれそうだが。
「一国……いや、世界をも滅ぼせるほどの戦力だな……?」
「そ、そんなこと企んでないからな?」
ソレイユの懐疑的な視線に俺は慌てて否定する。
昔、未菜さんにもそんなことを言われたような気がする。
「冗談だ。魔力の感じで主が悪人でないのはわかる」
ソレイユがニッと破顔する。
魔力ってそんなことまでわかるの? と思ったが、確かになんとなく邪悪そうな魔力ってわかるな。
どす黒いというか、重いというか。
しかしソレイユ、男前だ。
未菜さん、ローラと並べて三人で売り出したら我らが妖精迷宮事務所のアイドルたちの人気をも凌ぐかもしれない。
名付けてダンジョンイケメン三銃士。
銃を使うの一人しかいないわ。
……親父と柳枝さんの二人が<デュオダンディ>なる名称でタグ付けされてSNSで定期的にトレンドにあがっているのを思い出してしまった。
柳枝さんはダンディだが、親父はただのおっさんだろうとしか思えない……。
「そうだ、ソレイユは俺と記憶の共有とかできないのか?」
「む? 私も精霊となった身であるしできるとは思うが、良いのか? 人によっては嫌がると思うのだが」
「俺たちがどういう状況にいるのかっていうのは当然わかってもらっておいた方がいいしな」
「それもそうか。では主、手を」
「ほい」
ソレイユの手に触れる。
しばらくして……
「ふむ、ある程度取捨選択しているので全容を把握できたかはわからないが、大まかにはわかった」
ソレイユが手を離しながら言う。
記憶を覗く時の取捨選択ってどういう風にしているのだろう。
精霊にしかわからない何かがあるのだろうか。
スノウの時も全部は見てないみたいなこと言ってたしな。
「世界を滅ぼすのではなく世界を救う方であったか」
「救うって言ったらなんか大仰な気はするけどな……」
ただ、知ってしまった以上には放っておけないというだけで。
「悠真、ちょっといい?」
少し離れたところであちらに送るための手紙を書いていた知佳が声をかけてきた。
「お、できたか?」
「過不足なく。あっちに送って」
俺やスノウ、そこで寝ているルルが書くよりも知佳の言う過不足なく、の方が100倍くらい信用できるからな。
手紙をアスカロンの剣に括り付け、元ある場所に戻す。
「
「これができるようになったのは本当につい最近の話なんだけどな」
なのでソレイユと決闘をするまで完全に存在を忘れていた。
知佳も俺が何も言い出さないので使えないと思っていたんだそうだ。
なんというか、迂闊ですみません。
「知佳、どれくらいでこっちに召喚すればいい?」
「誰かが家にいればあの剣自体の魔力と、手紙にちょっとだけつけておいた私の魔力ですぐ気づいてもらえると思う。とりあえず30分後くらいに一回召喚してみて」
「了解」
確かにアスカロンの剣自体がそれなりの魔力を帯びている上に、知佳の魔力までついているとあれば流石に誰かしらは気付くだろう。
確実に家にいそうなのはレイさんあたりだな。
「主が元いた世界と連絡を取れれば、戻ることができるのか?」
「うーん、どうだろうな……戻れるようになる可能性は結構高いと思うけど」
シエルやアスカロンの知恵でなんとかなるような気はするが、それでもすぐにというわけにはいかないだろう。
親父が送られた異世界で魔王と戦闘している際、アスカロンが救援に来たのも割とギリギリだったし、基本的には異世界へのアクセスはダンジョン経由でしかできない。
俺たちがこうして見知らぬ世界へ飛ばされている状況がもう完全にイレギュラーなのだ。
「ところで、どういう班の振り分けにするのよ」
「あー、とりあえず俺とソレイユがダンジョン攻略、スノウ、知佳、ルルが情報集めって感じにしようかなと思ってる」
スノウは俺を転移召喚できるし、俺はソレイユを転移召喚できる。
つまりスノウサイドで何かがあった時に俺とソレイユがすぐに合流できるというわけだ。
そこに知佳やルルがいるとダンジョン内部に置き去りにしてしまうことになるので、最初からスノウと行動してもらうというわけである。
それにソレイユの実力をダンジョン内で見たいというのもある。
普通にダンジョンを攻略するだけなら、二人だけでも十分だろうしな。
普段ならもう少し盤石な戦力で臨むところだがそうも言ってられない状況だし。
「ふーん、ま、妥当なところね。ちゃんとソレイユを守りなさいよ」
「もちろん」
とは言え強さの序列的にはソレイユに俺が守られることの方が多そうだが。
「騎士として主に守られるわけにもいかないのだがな」
当のソレイユは苦笑いしている。
「ソレイユの魔法って弱点とかはないのニャ?」
離れたところで寝ていたと思ったルルが会話に割り込んできた。
「完全な暗闇で長時間の戦闘はできないね」
「むしろ短時間なら戦えるのか」
その特性上、少なくとも光の魔法は使えなくなると思っていたのだが。
「光を取り込んでおけば。そうだな……光をあらかじめある程度取り込んでおければ、3日は戦えるな。経験上」
「真っ暗な中で3日も戦ったことがあるのか」
「うむ。いやまあ、戦闘中だったので本当に3日経っていたのかは今となっては知る術はないが。なにせその後死んでしまったからな」
「おお……なんかごめん」
「いや、当時仕えていた姫様……主はその間に安全な場所へ逃げられているはずだし私に悔いはない。気にしないでくれ」
「3日も戦い続けるって……どんな精神力よ」
スノウがドン引きしている。
いや、そりゃドン引きするよな。
どれだけ強くったってそれだけ戦い続ければ死にもする。
「というか、どんな魔力量してるニャ。悠真程じゃニャくてもかなりのもんじゃニャいか?」
「いいや、恥ずかしい話ながら魔力自体は1日ともたなかったよ。取り込んだ光と自然に回復していく魔力で身体能力だけを強化して、後は我武者羅に戦っていたんだ」
「……その点は
「これて」
騎士というかバーサーカーでは。
そこから更に話を詳しく聞いていくと、ソレイユの生まれた家は代々とある王家に仕える騎士の家系だったらしく、ライトフォージ家は各国に名が轟いていた。
しかし名が通れば警戒もされ、対策も立てられるというもの。
敵国の数百人もの魔法使いが強力して王国から光を奪い去り、ライトフォージ……ソレイユの戦力を削いできたのだ。
そんな中でも仕えていた姫様の反対を押し切って既に押され気味だった戦場へ繰り出し、万を優に超える軍勢相手に三日三晩戦い抜いて主君たちの逃げる時間を稼いだらしい。
……とりあえず、あれだな。
ソレイユが無理しようとしたらなんとしてでも止めないといけないな。
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