第414話:ソレイユ=ライトフォージ

1.



 異世界に飛ばされて2日目。

 既に日が暮れかかっている夕方ではあるが、全員の準備が整った……というか体力が回復したのでようやく新しい精霊を召喚することになった。


 しかし、シエルやレイさんと言ったイレギュラーを除けば久しぶりの召喚サモンだ。

 

「召喚が終わったらまずは誰が先輩かを理解わからせてやる必要があるニャ」

「セイランたちが言っていたことを鵜呑みにするなら、スノウたちとほぼ同格の精霊が出てくるはずなんだけどな」


 なんなら初めて召喚した時よりも魔力が増えているわけで、ルルどころか今ここにいるスノウよりも強力な精霊が召喚される可能性すらあるのだ。

 ルルが興味津々の表情で、スノウが期待の目で、知佳はいつも通り何を考えているのかよくわからない眠たげな目でこちらを見ている。

 

 

「んじゃ、行くぞ……<召喚サモン>」


 お……。

 魔力がかなり持っていかれた感覚。

 半分くらい消費したんじゃないだろうか。


 光が俺たちの前に集まる。

 次の瞬間には、俺の目の前に『女騎士』がいた。


 シトリーよりも黄色みの強い、太陽に照らされた麦のような金髪は短めだが、前髪は左側だけが長く左目が隠れている。

 メカクレ属性というやつだろうか。

 そして対象的な白銀の全身鎧。

 凛々しく整った容姿。


 間違いなく女騎士だ。


 女騎士はしばらくきょとんと俺の顔を見た後、周りを見渡す。

 知佳、ルル、スノウと順番に見て……


「……ここは死後の世界だろうか?」


 と俺に向かって聞いてきた。

 もちろん女性ではあるんだが、かっこいい声だな。


「いや、違うけど……」

「しかしこの身は確かに滅びたはず」

「死んだあとに精霊になったのよ。それで悠真こいつに召喚されたってわけ」


 ふうむ、と首をひねる女騎士にスノウがそう伝える。

 それでわかるものなのかと思ったが、彼女は「ああ、なるほど」と頷いた。


 わかるんだ。

 

「魔力の特別強い者は死後精霊になることがあると聞く。となると、貴方が召喚術師――我が主というわけだな」

「まあ、そうなるかな」


 順応が速いのは助かる。

 しかし、スノウたちは俺に召喚される前にあの世界をと言っていたが(だからウェンディなんかは英語がぺらぺらだったわけだし、スノウは漫画を知っていた)、この人は違うのだろうか。

 どちらかと言えばスノウたちが特殊なのかな。

 セイランたちに殺される直前、ご両親が何かしたっぽいし。


「私はソレイユ=ライトフォージ。ソレイユで構わない」


 そう言って女騎士、もといソレイユは胸に握りこぶしを当てた。

 かっこいい。

 騎士っぽい。


「俺は皆城みなしろ 悠真ゆうま。こっちは……」

「スノウでいいわ。氷の精霊よ」

「知佳」

「ルルだニャ」


 俺以外の三者三様の自己紹介を受け、ソレイユは立ち上がってうぅむ、と唸った。

 

「主は女好きなのか? 命令されれば伽もするが、経験がないので手を煩わせることになってしまう」

「いや、命令はしないけども……」


 経験がないというのはむしろアドバンテージだ。

 経験豊富なお姉さんも捨て難いが、こちらが色々教え込む方が捗る。

 いやそれは置いといて。


 しかし精霊というのは美人しかいないのだろうか。

 ソレイユは男前な美人だ。

 ローラと未菜さんを足して2で割った感じの。


 女騎士に『命令』してあれこれするのも悪くないな……なんて思っていると、スノウに後ろから小突かれた。

 

「あんたが何考えてるかなんて念話がなくてわかるわよ、スケベ」

「変態」


 スノウと知佳からのダブル罵倒コンボ。

 スケベも変態も否定できないのが辛いところだ。


「それで、あー……差し支えなければ早速本契約に移りたいんだけど」


 背後からの視線が強くなったような気がする。

 だ、だってしょうがないじゃん。

 仮契約の状態でも相当強そうではあるが、本契約をするとしないとでは雲泥の差であるということはよく知っている。


「その前に力比べだろう?」

「……力比べ?」


 ソレイユは当然のように言ったが、そんなの知らないぞ?

 スノウの方を見る。


「あたしだって知らないわよ。『世界』によって精霊の常識は違うでしょうし」


 まあ少なくともスノウと力比べをした覚えはないもんな。


「<仮契約>の状態が試用期間みたいなものと考えれば自然な話ではある」

 

 知佳が言う。

 その試用期間っていうのは要するに俺が社員側ってことだろうな。

 仮契約状態との力比べをし、お眼鏡に適わなければそのまま帰ってしまうみたいな感じだろうか。


 まあわざわざ仮契約状態で呼び出し、本契約するという手順を踏む以上、召喚される側の精霊にも選ぶ権利がないと駄目だというのは頷ける話ではあるな。


「まあ、そんなことをしなくとも主が強いのは感じる魔力からしてわかっているが、形式的なものだ。主がどのような戦い方をするのか身をもって体験しておきたいというのもある」

「そういうことなら付き合ってあげればいいんじゃない? あたしが見てればお互い怪我もないでしょうし」


 というスノウの言葉もあったので、本契約前の力比べをすることになったのだった。



2.



 町から少し離れた森の中。

 普段は動物たちの憩いの場にでもなっていそうな湖の近くで俺たちは向き合っていた。


「胸を借りるつもりで行こう。全力で頼む、主」

「そりゃこっちの台詞だけどな……」


 俺は手元にアスカロンから託された剣を物質召喚する。

 ん……?


「え」


 傍で見ていた知佳も俺と同じことに気づいたのだろう。

 

「お前ができるなら、あっちと連絡取れるんじゃニャいのか?」


 ルルも気づいたようだった。

 

「そういえばそういうのもあったわね、あんた」

「どうしたのだ?」


 ソレイユにはまだ状況をちゃんと説明してなかったからな。

 

「仕切り直しも面倒だし、先に力比べ終わらせて。あっちに送る手紙は私が考えておくから」


 知佳がペンと紙を取り出してさらさらと何やら書き始める。

 そう。

 物質召喚ができるのなら、その召喚したものに手紙か何かをくっつけて送り返せば良いのだ。


 基本的に俺が物質召喚するものは自宅の倉庫に置いてある。

 アスカロンから託された剣なんかもそうだが、中には魔力を帯びているものもあるのでそれがどこかへ行けばフレアたちがそれに気づかないはずもない。


 その異変を感じ取って倉庫に誰かが行けば、俺たちが書いた手紙は発見され、あちらとの文通が可能になるわけだ。


 知佳なんかはすぐにこの可能性を考えていただろうが、俺が今の今まで物質召喚をしようとしなかった上に、他の姉妹やシエルたちを召喚できないということはこっちもできないと思っていたのだろう。

 俺も無意識に駄目だと思っていたのだが、更に無意識にアスカロンの剣を取り出せたことで発覚したというわけだ。


 つまりなんというか、全面的に俺が悪い。

 すみません。


「……と、ソレイユも剣が必要か」

「いや、問題ない。私は自前のがある」


 そう言うとソレイユの左手に長めの片手剣が出来上がる。

 物質創造魔法か。

 特別強度がありそうには見えないし、魔力も特に感じない。

 使い捨てだろう。


 剣の性能に差がありすぎるのはちょっと気がかりだが、ソレイユが自前で用意すると言った以上なにかしらの考えはあるのだろう。

 侮っていい相手ではないのはわかりきっている。


 仮契約状態でこの圧を感じるのならば、本契約後は四姉妹やシエルと並ぶ力を持つことになるだろう。

 だが、流石に――


「参る」


 ソレイユが地を蹴ってこちらに急接近してくる。

 が、

 

 出会った当初のスノウの例でもわかるが、仮契約状態の精霊は通常のダンジョンのボスを倒せないくらいの出力しか出せない。

 それでも並の探索者に比べれば遥かに強いが、この期に及んで俺は自分が並だとは思わない。


 キィン、と甲高い音を立ててソレイユの剣を防ぐ。


「ぐっ――」


 そして剣を防いだそのままの勢いで前蹴りを入れ、遥か後方に吹き飛ばす。

 流石に負ける要素はなさそうだな。

 

 上手いこと受け身を取ったのであろうソレイユは特に効いていなさそうな様子でこちらまで戻ってきた。


「うむ。私の記憶にある中でも相当強い方だな、主は」

「そりゃ光栄だな」

「安心して全力で放てる。全力ではあるが」

「……よし来い」


 何かをするつもりなのはわかっていた。

 本当に普通に剣を交えるだけだとは思っていないさ。

 ソレイユは剣を天高く掲げる。


 するとその剣が光を放ち――いや。

 光を集めている……ように見える。


「なるほど、そういうタイプの魔法ね」


 なんてちょっと離れたところでスノウが納得した風に頷いているが、俺は当然どういうタイプの魔法なのかは全然わからない。

 一つわかるのは、この魔法は仮契約状態であってもボスを吹き飛ばすくらいの威力が出そうだということだ。


「――参る」


 の存在を知っていたというのは良かったのかもしれない。

 集めた光が斬撃の形となって、俺の方へと飛んできたのだ。

 

 凄い魔法だ。

 仮契約状態でここまでの威力を出せるとは。

 

 だが。

 ダンジョンのボスを吹き飛ばすくらいの威力じゃあ、今更俺はどうということもない。


 アスカロンの剣に魔力を込め、ちょうど俺に飛ぶ光の斬撃が当たりそうなタイミングで腕だけの力を使って横薙ぎに剣を振るう。


 ッガァンッ!!

 

 と凄まじい衝突音。そして爆発音。

 衝撃が辺りに伝わる直前に知佳とルルをスノウの氷が守ってくれるのも見えたので安心だな。


 砂埃が風の魔法で散らされる。

 スノウだな。

 向こうから現れたソレイユはイケメンな笑顔を浮かべながらこちらに歩み寄ってきた。


「うん、素晴らしい。流石は私を召喚できるだけの魔力を持っているだけのことはある」

「力比べは合格ってことでいいのか?」


 そう聞くとソレイユはその場に跪いた。

 

「私、ソレイユ=ライトフォージは主にこの身を捧げることを誓う」

「顔は上げてくれ。主従関係ってよりは、仲間として頼むよ」


 ウェンディやレイさんが脳裏をよぎったがまああの二人は好きでやってることだし良いか。


「わかった。では、よろしく頼む」


 立ち上がったソレイユと握手を交わし、俺たちに新たな仲間が加わったのだった。



----------------


作者です。

2月15日に「ダンジョンのある世界で賢く健やかに生きる方法」コミカライズ第4巻が発売されています!

ぜひぜひ買ってやってください!

甘味みつ先生の素晴らしすぎる画力で描かれたえちえちなシーンがたくさんあります。


そして長らくおやすみを頂いていた本作もようやく腰を据えて続きが書けるような状態になって参りましたので、これからもよろしくお願いいたします。

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