第413話:やるニャ

1.



 スノウがドラゴンの気配を頼りに遠隔で凍結させ、それでおしまい。

 素材なんかは何が売れるのかわからないので、体の部分は凍結させたままドラゴンの首だけを落として持って帰ることにした。


 ウェンディ程ではないにせよ風魔法の使えるスノウがドラゴンの首を浮かせ、もう一度俺が知佳を抱っこして町までダッシュ。

 ルルの体力のこともあって行きの倍かかったが、それでもギルドでドラゴンの詳細を聞いてから4時間もかかっていない。


 ドラゴンの首をそのまま持っていくと当然目立つので、俺だけ先に町へ入ってギルド職員……先程のお姉さんを連れ出す。


「……あの、もし虚偽の報告で私を連れ出しているのでしたら、ペナルティを受けますからね……?」

「はは……そんな警戒しなくても大丈夫ですよ」


 取って食おうってわけじゃないんだから。

 大きすぎる魔物の素材買い取りだったり討伐の証拠だったりは町の外で行う場合もそれなりに多いらしく、特別な手続きなしで連れ出せたのは幸いだったが。

 

 しかし実際問題、歩いて往復で10日以上はかかろうかというところにいたはずのドラゴンをほんの4時間足らずで狩って帰ってきたというのだからそりゃある程度警戒はするだろう。

 

 それでもついてきてくれるのは犯罪歴がないことをわかっているからかな。


 

 そして。

 頭部だけでも象サイズくらいあるドラゴンの首を見た職員さんは「嘘でしょ……」と呟きつつもあちこちぺたぺた触ったり、虫眼鏡みたいな魔導具? で細部を見た後に、


「ま、間違いなく討伐依頼の出ていたドラゴンですね……」

「これでランクはどれくらい上がる?」

「……まず間違いなくAランクまでは上がるかと」


 知佳の質問に受付嬢さんが未だ半信半疑の様子で答える。

 まあ気持ちはわかるよ。


「どのくらいの金になりそうかニャ?」


 ルルがストレートに質問する。

 まあこの世界からすぐに脱出できそうにない以上、どこかの宿なりを借りて拠点を構える必要があるわけで。

 そうなりゃ必然的に金も必要になる。

 竜車を借りる余裕もないから走ってったわけだしな。


「胴体部分もこのような綺麗な状態なのでしょうか?」

「そうね。魔物の餌にならないように氷漬けにして置いてあるわ」

「ドラゴンは全身があらゆる魔導具や武器防具、薬などに使われると言われています。具体的な金額はまだわかりませんが、30億ギル……いえ、もしかしたら40億は行くかもしれません」


 ギルという通貨の価値がどんなものかわからないな。 

 なんて思っていると、知佳が「大体1ギル1.5円くらいの価値だと思う」と耳打ちしてきた。


 なんでわかるんだろうと思ったが、知佳のことだ。

 町中で売っている商品と数字と思しき形の文字を見比べてなんとなくで概算したのだろう。

 となると、円に直すと45億から60億円と言ったところか。


 意外と安いんだな、ドラゴンって。

 いや決して安くはないのだが。

 どう考えても高いんだけれども、桁数が大きいお金に対する価値観が完全に狂っているのを感じる。


「また往復するのめんどくさいし、売値から手数料引いていいからギルドの方で回収してもらえるかしら」

「え、ええ、もちろんそれは構いませんが……」


 まだ上手く事態が飲み込めていなさそうだ。

 この世界はまだダンジョンが攻略されていないとのことで大きな魔石とかも出回っていないだろうし、こういう纏まった額を扱うことはあまり多くないのかもしれない。

 柳枝さんのように早めに順応してもらえることを祈ろう。


 ちなみにスノウが収納魔法で収めている魔石を売る案もなくはなかったのだが、ダンジョンに入るのにランクが足りていない俺たちが魔石を持ち込むと面倒事が発生する可能性があったのでやめておいた。


 ドラゴンの討伐もそれはそれで面倒事にはなりそうだが、面倒なのは俺たちじゃなくてギルド側の手続きやらなんやらだろうしな。

 

 異世界のダンジョンで取った魔石を下手に言い訳して売るよりはこの世界で狩ったドラゴンをそのまま納品した方が楽そうというわけだ。

 労力はぶっちゃけそんな変わらないし。


「今後もこういうことあると思うんで、よろしくお願いします」

「は、はい……」



2.



「はー……とりあえず寝泊まりするところは確保できたわね」


 一泊120万ギルという高級宿の部屋に入るなりスノウはベッドにダイブした。

 前金で3000万ギルほど払って貰っているので金に余裕はあるし、あるものは使えがモットーだというのもあるのだがそもそも高級な宿じゃないと風呂がついていなかったりするのだ。


 ここも風呂というか湧いている温泉を利用している宿だし。

 そしてベッドがめちゃくちゃでかい。

 10人くらいは大の字で寝られそうだ。


 俺はこちらもやたらと巨大なソファに座る。

 ルルはいつの間にかそのソファの端の方で横になっている。

 

「各々寝転がったままでもいいから今後の方針を決めるか」

「ん」


 知佳は当たり前のように俺の膝の間に入ってきた。

 既に特等席みたいなものだし、実際知佳の中では当たり前なのだろう。


「基本的には二手に分かれるべきだと思ってるんだけど、どうだ?」

「暫定帰れる方法であるダンジョン攻略班と、この世界の情報を集めつつ他の帰る方法を探る班ね」

「そういうこと」


 スノウが即座に俺の考えを見抜いた。

 

「で、どういう風に分けるかなんだけど……俺一人と、知佳、スノウ、ルルの三人が一番かなと思ってる」

「なんでニャ?」

「戦力的な問題と、小回りの利きやすさの問題だな。この世界に飛ばされたのがあの女――セイラン絡みじゃないとは言い切れないだろ? 俺は一人でも戦えるし、もしこっちに何かあっても、そっちに何かあってもスノウが俺を転移召喚すれば良い」


 スノウは超強いが、俺と離れすぎるとある程度弱体化する。

 それでも強いことには変わりないが、ルルもいればより安心だろう。


 俺と知佳が共に行動するパターンも考えたが、スノウが俺を転移召喚するなら知佳が置き去りになるし、俺がスノウを転移召喚するならルルが置き去りになる。

 となれば全員の安全を考えると、俺一人と残り三人という別れ方になる。


「その別れ方だと悠真がダンジョンってこと? あんた一人で大丈夫なの?」

「大丈夫だとは思うけど、やばくなったら念話を飛ばすから転移召喚で助け出してくれ」

「戦闘力的には大丈夫そうだけど、お前一人だと色々心配だニャあ」

「ルルに心配される日が来るとは……」

 

 まあ言いたいことはわかるが。

 俺も俺一人ってちょっと心配だなって思うもん。


「いい方法がある」


 膝の間に座っていた知佳が立ち上がって、ベッドの方に移動する。

 そしてちょいちょいと手招きをする。

 なんだろう。

 押し倒していいのかな。


「おっと」


 なんて思いながら近づいていくと、ぐいっと腕を引っ張られて逆に俺が押し倒された。

 

「今日は攻める気分なのか?」

「まあ、それはどっちでもいいんだけど」


 どっちでもいいんかい。


「?」


 スノウがうつ伏せでこちらを不思議そうに見ている。

 スノウ含め、俺たちが盛るのは日常茶飯事のようなものなのでそれ以外に意図がありそうな知佳の考えを推し量っているのだろう。


 しかし知佳の顔が近い。

 近くで見れば見るほど可愛いんだよな、こいつ。

 肌とか赤ちゃんみたいにもちもちだし。


 元々肌は綺麗だった記憶があるが、最近は特にだ。

 魔力の影響なのか、日々の努力の賜物なのかそのどちらもなのか。


「あ」


 スノウが答えに思い至ったようだ。

 そして何故か顔を赤らめた。


「……新しく召喚するってことね」

「そうか……!」

 

 スノウという、転移召喚可能な強大な戦力が一人しかいないのが問題だったのだ。

 もう一人、それに匹敵し得る戦力がいれば何も問題はなくなる。


 元の世界ではスノウたち以外に召喚することは結局できなかったが、この世界ならば俺の大きな魔力にも対応した精霊がいるかもしれない。

 ていうか、シエルたちの世界で召喚試すのもすっかり忘れてたな。

 戻れたときにまた試してみよう。


 スノウが赤くなったのは、召喚前に魔力の余裕を持たせるため、今から起きることを想像したからだろう。

 まあ元々知佳とする時点で同じ部屋にいるスノウもルルも同じ目に合うことは確定していたのだが。


「やれやれ、異世界に来ても結局セックスかニャ」


 ルルがわざとらしく呆れたように言う。


「嫌なら別にルルはやらなくてもいい」

「……やるニャ」


 というわけで、今からある程度の余裕を持たせるためにやるニャ。

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