第405話:王鵬
1.
(そこの丁字路は右で、突き当たりを左です)
「おっけー……っと」
曲がった先、長い廊下の中腹辺りに二人の見張りか……使用人? らしき人がいたので、レイ直伝脳震盪でまず一人を、叫ぼうとしたもう一人も同じように気絶させる。
殴らなくていい分、力加減が簡単かつ外傷が残ることもなくて楽でいい。
スノウ曰く俺は身体能力を制御することに関しては何も心配しなくていいくらい完璧にできてるらしいのだが、それでもそもそも相手が完全に悪人ならともかくただの雇われてる人たちを殴るというのは流石に良心が痛む。
そうするしかないのならそれを今更躊躇するほど生半可な修羅場は潜ってきているつもりはないが。
「……お?」
今最初に気絶させた奴の腰元から拳銃がチラリしている。
女の子の肌だったらまだしも、おっさんの拳銃がチラリしていても何も嬉しくないぞ。
……ていうか帯銃してるんだな。
しかもこの銃って、ちょっと前にアメリカが発表してたダンジョン用の拳銃じゃないの?
なんか見覚えあるぞ。
ローラにスポンサーしている企業のロゴが入っている。
ダンジョン用の銃は基本的にダンジョン内でしか使えないようなセーフティが施されている。
今思えば、
(マスター、恐らくその拳銃ですが、セーフティを外してあると思います)
ウェンディから念話が入る。
俺が見ている風景は常に念話で流しているので、違和感に気付いたのだろう。
(セーフティを外すとかできるのか?)
(はい。基本的には違法な改造になりますが、欧米やアジアを中心に流行っているそうで)
マジかよ。
世も末だな、と思ったがそりゃこの手の武器が出てくればそのセーフティを破ろうとする奴が出てきてもおかしくはないか。
青色のパズルの中に一つだけ黄色いピースがあれば誰でも気づけるように、技術的には謎であっても普通の拳銃の構造がわかっていれば異彩を放つ別種のものを排除するだけで良いのだ。
そうなれば単なる馬鹿げた威力をぶっ放す危険な拳銃の出来上がりである。
「にしたって殺意が高すぎるような気もするけどな……こんなん熊相手でも頭を吹き飛ばせるような威力の代物だろ」
それくらいの威力になってくると、反動や扱いの問題で確か日本では一級探索者からしか持てないようなものだ。
とても屋敷の警備兵が持っていて良いようなものではない。
というかこの人魔力は二級探索者と同じかそれ以下くらいだし、身体強化もほとんど入っていないようなほぼ一般人だからこんなの撃てば自分の腕が反動でぶっ壊れるぞ。
むしろ腕で済めば良い方だ。
(……俺みたいな侵入者を想定してる可能性ってあると思うか?)
(無い……とは言い切れませんが……)
まあこの程度の武器なら、俺は臨戦態勢の状態ならば直撃しても痛くもないしそもそも当たらない。
シトリーほど完璧なそれではなくとも、俺も一般的な銃器の攻撃なんてカウンターできるくらいには修行しているのだ。
「……ま、誤射とかで逆にこの人達が傷つかないように気をつけるくらいか」
後は撃たれたら流石に音が出るので、騒ぎが一気に大きくなることくらいで――
ジリリリリリリリリ!!
とけたたましい音が鳴り響く。
そして中国語でなんらかの放送がされる。
ウェンディに翻訳してもらうまでもない。
俺が気絶させた奴が誰かに発見され、侵入者への警戒を促すものだろう。
だが――
(そこを真っ直ぐいった先が目的地です)
(ああ、わかってる)
後は強行突破するだけだ。
2.
両開きの扉に鍵はかかっていなかった。
馬鹿みたいに広い部屋の中央には馬鹿みたいにでかいベッドと馬鹿みたいにでかい液晶、その他家具だったり壁面ミラーだったりと……有り体に言うならラブホみたいな様相を呈していた。
で、馬鹿みたいにでかいベッドには眼鏡をかけた黒髪の七三分けで割と筋肉質な体をした糸目の男が全裸で横たわり、その周りに5名ほどの美女を全裸で侍らせていた。
誰がどう見てもお楽しみの後である。
ハーレムかよ許せんな。
で、あの男は――
「あんたが
試しに英語で話しかけてみると、周りの女たちはびっくりしたような表情でこっちを見る中で、驚くでもなく睨むでもなく、平坦な感情をもってこちらに目を向ける。
「おや、美しいお嬢さん。何用ですか?」
英語だ。
しかしキザったらしい奴だな。
俺もキザったらしい英語を使っていたらしいが(知佳たちに散々言われた)、最近ではだいぶましになった……と聞いた。。
それでもネイティブな人たちから言わせればガラの悪い英語には変わりないらしいのであまり気にしないことにしているが。
「虚無僧のような男を知っているな?」
「ええ、もちろん。異世界からやってきたあの方でしょう?」
どう誤魔化すかなと思ったが、
しかも聞いてもいないことまでペラペラと。
こうして侵入された時点で誤魔化すのは無駄と悟ったのだろうか。
「それで、結局どういった用件かな。虚無僧と会わせろという話なら出来かねるけど」
「単刀直入に言う。お前ら何を狙ってる」
「お前ら、と言われると知らないと言わざるを得ませんね。私はこの世界が変わった後に権力者になることが目的ですが」
……この世界が変わった後?
変わるんじゃなくて滅ぼされるんだぞ。
(マスター、少しお待ちを)
そこでウェンディから待ったがかかる。
(どうした?)
(この男は世界が終わるのではなく、変わると言っている。奴らが滅ぼそうとする前段階のことを知っているかもしれません)
なるほど。
もう少し喋らせてみるか。
「変わった後に自分が権力を得られる自信があると?」
「ありますとも。私には力がありますから」
周りで聞いている女の人たちはポカン顔だ。
というか服着てくれませんかね。
目のやり場に困る。
部外者が急に入ってきたとは言え、今の俺の姿が女にしか見えないせいかあんまり恥じらってはいないんだよな。
いや別に見ないけど。
流石に俺だって女なら誰でも良いというわけではないのだ。
「力?」
「ええ、あの御方に授けていただいた力が――こんな風にね」
嫌な予感がした。
頭で考えるより先に、俺はその場を飛び退く。
すると先程まで俺が立っていた床が抉れた。
前兆もなく、ごっそりと。
……何だ今のは。
何かしらのスキルか……?
(天鳥さんから伝言です。その抉れ方は、恐らく宙空のどこかを中心としてそこへ向かって圧縮されるような攻撃である可能性が高いと)
(……なるほど)
この一瞬でよくそこまで分析できたな。
流石はうちの頭脳担当天鳥さん。
他にも頭脳担当何人かいるけど。
そして恐らくその圧縮の中心は――
再び俺はその場から飛び退く。
「視線の先、か」
「只者ではないようですね」
流石にドンパチが始まってもそこに居座るような度胸はなかったらしく、
「話を聞かれてしまいましたね」
そう言って
「待て!!」
俺は咄嗟に奴の前に立つ。
すると何を思ったかそのまま攻撃することはなく、眉を上げた。
「彼女たちを助けて貴女に何の得が?」
「……自分の損得でしか物事を語れないのかよ」
「それが人間の在るべき姿でしょう」
……早着替えなんてレベルじゃないぞ。
それもなにかしらの絡繰りがありそうだな。
同じスキルを応用したとは考えづらいが……
「変わった後の世界じゃお前みたいなのがのさばるのか?」
「いいえ、力なき者は人に非ず――それが新たな世界ですから」
なるほど、イかれてやがるな。
しかし感じる魔力量は一般人と変わらない。
魔力を隠しているという感じもない。
あの謎の攻撃にだけ気をつけていればこちらが怪我をするようなこともないだろう。
「……あの虚無僧はもういない。それでお前の理想が叶うとでも?」
「いない? それはおかしな話ですね」
「……なんだと?」
「あの御方は帰ってきますよ。必ずね」
……何を言っているんだ。
あいつは確実に俺が倒した。
受肉までして暴れていたところにトドメを刺したんだ。
そこには俺含め、誰も疑問を抱いていない。
シエルやアスカロンですら、だ。
それが帰ってくる?
盲信しているのか、それとも……
「どうやって帰ってくるんだ」
「私は知りません。ですが――」
嫌な予感がして、俺はさっとその場を離れる。
すると先程と同じように床が抉れた。
「あの御方の存在を知っている者が現れた場合、殺せと命じられているので。申し訳ありませんが、死んでいただきます」
……さて。
どうやって拘束したもんかな。
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