第394話:異世界人
「オレはトールマン。フィリップ=トールマンだ」
素敵ハゲもといトールマンはそう名乗った。
というか、今の今までそういや名前知らなかったんだよな。
フィリップて。
見た目に似合わなすぎる名前だ。
「……てことはフィリップじゃないのか?」
「そう呼んでいいのは大親分……前の船長だけだからな。いや、前の前、か」
「言っとくけど、別に俺は船長やりたいってわけじゃないからな。お前らを利用したいだけだ」
「そうかい。それならそれで、この海賊団がなくなるようなことになんなきゃなんでもいい」
裏を返せばなくなるようなことになるんなら良くないってことか。
別にそういうつもりで動くってこともないとは思うが。
ちなみにこの会話は基本的に念話で知佳へ垂れ流している。
なにかわかったことや気になったがあれば口出ししてくるはずだ。
「……で、異世界人が冒険者ギルドと繋がってるってのは?」
「ここ20年くらいの話だ。冒険者ギルドが妙な魔道具を開発して売るようになった。メカニカなんかから技術を仕入れてんのかとも思ったが、どうにもそうじゃねえっぽい」
「……まさかそれだけが根拠か?」
「んな訳はねえ。先代が異世界人だったんだよ」
「……は?」
「んでもって元の世界で見たことのある道具がちらほらあるってんで、その辺がわかったってわけだな」
「ま、待て待て。待て待て待て」
「どうした」
「リリアナの父親が異世界人?」
「ああそうだ」
マジかよ。
どこの異世界人だ?
俺たちの世界?
それともアスカロンの世界?
あるいはそのどちらでもない世界。
「名前は?」
「レスター・マクスウェル」
まあ知らない人だわな。
(こっちの世界の人だとしたら英語圏の名前ではあると思う、レスター)
(へえ……)
流石は知佳。
大体なんでも知っている。
英語圏か。
……広すぎて全然絞れないな。
別にこちらの世界だったりアスカロンの世界だったりであり得ない名前というわけではなさそうだし。
「で? そのレスターっておっさんが行方不明になったから探してくれってことか?」
「オレにはどうにも冒険者ギルドが一枚噛んでるように思えてならないんだ。だが、オレはならずもんだ。冒険者ギルドに登録できねえ」
あー……
流石に海賊は登録できないのか。
まあ海賊ってシンプルに犯罪者集団だもんな。
「事情はわかった。で、それがなんで俺にとっても悪い話じゃないってことになるんだ?」
「お前、異世界人だろ。だから興味があると思ってな」
「…………何故そう思った?」
「皆城 悠真。ハイロン聖国で聖騎士たちによる独立を手伝い、セーナルでベヒモスの進行を食い止め、ラントバウで塞ぎ込んだ姫様の心を溶かし、メカニカで大規模爆発事件を起こしながら何故か起訴されず、帝国騒動の裏で暗躍していた人間……だろ?」
手元に剣を召喚する。
今のを聞いて俺の中での警戒レベルがかなり跳ね上がった。
もし何かあっても、一瞬でこいつの首を刎ねる。
「落ち着けよ。裏社会の情報網を舐めるな。もちろんお前の情報が直に回ってたわけじゃねえが――色んなところに分散してる情報を統合した結果、お前と結びついたってわけだ」
「……もっと見た目に似合った分析力でいろよ」
「でかい奴にも小さかった時期はあるんだぜ」
まあそりゃそうなんだが。
知佳や天鳥さん、ミナホほどまでとはいかないが、綾乃やウェンディと同等クラスの頭の回転はしていそうだ。
それに加えて裏社会の情報網とやら。
なるほどこりゃ壊滅させるよりも仲間に加えた方が有意義だな。
流石にここまでのブレインがいるとは知佳も思っていなかっただろうが。
「色々な情報を統合した結果、皆城悠真という男は異世界人だろうという結論に至った。そして直にお前がリリアナ嬢と勝負しているのを見て確信した。お前、大親分と同じで召喚された勇者だろ」
……おっと?
最後の最後で大きく外してきたぞ。
というか……
召喚された勇者?
ジョアンじゃあるまいし、まさかこんなところでそのフレーズを聞くことになるとは。
「召喚されてこの世界にいるわけじゃないが、異世界人だってところは合ってる。レスターっていうおっさんと同じ世界から来てるのかは知らないけどな」
「冒険者ギルドを突けば元の世界へ帰れるかもしれないぜ」
「別に自在に行き来できるからな」
「……あんだと?」
流石に知らない情報までは推理できないのか。
そして今のトールマンの反応を見るに、レスターは元の世界へ自在に帰ることはできなかった。
「……レスターは何故こっちの世界へ来たんだ? いや、どうやって、と聞くべきか?」
「ダンジョンで死にかけ、気付いたらこの世界へいたと言っていたな」
「ダンジョンで……」
……なるほど。
どっかの誰かさんとの共通点が多いな。
ダンジョンで死にかけたら異世界にいて、帰り方がわからなかった。
そのどっかの元消防士と違うのはこっちの世界で妻子……妻は知らんが子供はいたってことか。
「で、子供すっぽかして何やってんだレスターは」
「あの人はリリアナ嬢を捨ててどこかへ行く人じゃねえ!!」
ドンッ!!
と強くテーブルを叩くトールマン。
その衝撃でいとも簡単に木のテーブルは壊れてしまう。
「悪かったよ。なにか事情があるってことだな。それが冒険者ギルドと関係あるのか?」
「……オレたちみてえな海賊は元々冒険者ギルドのような組織からは嫌われがちだ。だが、連中はオレたち海賊団を異様に嫌ってた」
「異様に?」
「執拗に、な。だが大親分は強かった…………お前ほどじゃないがな。だから冒険者たちもさほど問題ではなかった」
どれくらいの強さなのかは想像するしかないが、トールマンが強いと断言する以上は並の強さではないのだろう。
なにせこいつ自身が結構な猛者だ。
「それで?」
「ある時、ギルドから使者がやってきた。代表者とサシで話したい、とな。それへ応じた大親分が帰ってくることはなかった……ってぇわけだ」
……そりゃ冒険者ギルドが怪しいってなるな。
しかし、冒険者ギルドか。
セイランたちが関わっているのか?
それとも全くの別件か?
召喚された勇者ってのは……
魔王の件へ対処する為のものじゃないのか?
リリアナの年齢はどう見ても二十歳近くはある。
つまり彼がこの世界へ転移してきたのはどう短く見積もっても20年前。
時期的には親父と全く合致していない。
しかしその間に明確な脅威があったという話はシエルからも聞いていないし……
まさか魔王以外の脅威が存在するのか……?
分からないことだらけだな。
どうやら一筋縄ではいかなさそうだ。
「――とは言え、お前自力で元の世界に帰れるんだろ? ならこんな話をしても意味はねえな」
「……だな」
俺は溜め息をついて立ち上がる。
やるべきことがある。
まだミンシヤたちの件は解決していないのだ。
「まあ色々お前らには力になってもらうからな。その見返りとして多少動くことは……まあ吝かでない」
(吝かでないって喜んでやるって意味だけど大丈夫?)
知佳からのツッコミが入る。
大丈夫だっての。
知ってるからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます