第388話:眠気の波

「……海賊がロケラン持ってたりすんの?」

「そう。普通に武装集団だよ」


 海賊たちに出くわすまでは普通に航行するということで、俺たちには特別に部屋が割り当てられた。

 その間にジョアンに話を聞こうと思ったのだが、あいつはあいつでかなりの堅物なので仕事中に余所事をするのは許せない性格らしい。


 なので仕事が終わってからということになって、俺たちは暇しているというわけだ。

 

 で、俺たちの世界にいる海賊について知佳から話を聞いていたのだがどうやら海賊たちはロケランとかライフルとかを普通に装備している武装集団らしい。

 未菜さんのような達人でもなければ、探索者でも小銃相手には分が悪い……というか普通に死ねる。


 俺も小銃くらいなら直撃しても全然平気だが、ロケランとなるとどうなるかな……

 流石に……擦り傷くらいは負うだろうか。


 いや待てよ。

 そう考えると今の俺ってとんでもなく強いのでは?


 いや、自分の強さについてはある程度があるのだが、それでも相手が魔法だったり魔力で強めた物理なりだったお陰で、現代基準の火器を基準にすることがなかったのだ。


 しかし改めて冷静に考えると、今の俺は対物ライフルでもパチンコで石ころを当てられた程度のダメージで済みかねない。

 

 …………あれ、俺ってもしかしてすごく強い?

 頑張れば軍隊も蹴散らせたりする?

 いや、別にそういう予定は全くないのだが。


 そういうのはスノウたちの専売特許だと思っていたが、俺も随分遠いところまで来てしまったものだ。


「なんでドヤ顔してるの」

「え、いや」

「どうせ銃器についてよく考えると、自分が思ったより強くなった気がして気分が良くなってたとかだろうけど」

「なにお前エスパーかなんかなの?」


 念話で喋ってたわけじゃないよな?

 

「でも実際どれくらいまでの衝撃なら耐えられるの」

「どうだろ……現代日本基準でってことだろ?」


 さっきも考えた通り対物ライフルとかロケランとかは多分平気。

 食らったことがないからなんとも言えないが。

 

「自動車にぶつかられても平気?」

「だろうな」


 どう考えても自動車の方が脆い。

 

「じゃあ電車は?」

「電車は……」


 電車にぶつかる状況というのがなかなか想像しづらいが……

 電車レベルの質量のものがそれなりのスピードで突っ込んできても、窓ガラスだったり電車そのものの耐久度の問題で俺の方が勝っちゃう気がする。


「多分平気だな。でも電車の質量を持った俺より硬い物体、とかだったら全然ダメージを受けると思う」

「ふぅん……じゃあ新幹線は?」

「流石に痛いで済むかは微妙なラインだな……」


 骨の一本や二本は折れてもおかしくない。

 死にはしないと思うのだが。  

 いや、どうだろ。

 本気で防御すればあるいは……

 うーむ。

 試したくはないが。

 怖いし。

 痛いだろうし。


「ふぅん……」

「…………ん?」


 知佳の目がなんかとろんとしている。

 いつも眠そうな目をしているのだが、今は本当に眠そうにしてる。

 

 海が荒れてるから船がだいぶ揺れてるんだが、もしかしてその揺れで眠くなっているんだろうか。

 一歩間違えればかなりひどい船酔いになってもおかしくないというのに。


「……眠いのか?」

「別に……」

 

 明らかに普段よりスローテンポな喋り方。

 なるほど、眠いのか。

 

 なるほどなるほど。

 



 かっっっっっっわいいなこいつ。




 どうしよう、ただでさえ可愛い知佳が更に可愛くなっている。

 大変だぞこれは。


 スマホで録画しておこう。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………なにみてるの」


 じぃっと知佳の様子を観察していると、眠そうな声で訊ねられる。


「別になんでもないけど?」

「…………」


 もはや言葉は返ってこない。

 知佳って基本普段から寝不足気味なことが多いんだよな。


 それでも何故か毎回俺が先に寝ている。

 疲れて半ば気を失っている時なんかは別として、という注釈はつくが。

 

 なので知佳が眠そうにしている時のことをちゃんと俺が覚えていることはないし、そもそもなかなかそういう姿を見せることがない。


 つまりこの状態は永久保存版なのだ。


「なあ知佳、お前って俺のこと好きなんだよな?」

「…………なんで?」

「いや、確認したくなることってあるだろ。やっぱりさ」

「べつにぃ……わたしは…………」


 ない、とすら言えないほど眠いらしい。

 俺から話しかけれているのでギリギリで耐えていると言ったところだろうか。


「俺は好きなんだけどなあ」

「……………………」


 知佳が小さく口を動かした。

 なんと言ったかまでは聞き取れなかった――というか、そもそも声を出していないのだろう。


「相思相愛だってわかってても定期的に互いの気持ちを確認しあうのって悪くないことだと思うんだよなぁ」

「…………」


 知佳が恨めしそうに俺を見る。

 普段だったらこの時点でぼこぼこにされているのだが(精神的に)、今日は反撃が来ない。


 ……やりたい放題だ!

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