第381話:運命力
「あれ、
転移石でさくっと地上へ戻ってくると、シトリーとシエルが知佳と綾乃に魔法を教えている最中だった。
転移で急に現れるのにはもはや慣れっこになっているので特に誰も驚かず、綾乃が普段通りに返答してくる。
「ちゃんとダンジョンへ入ってるかどうかを確認しに来ただけとのことだったのですぐ帰っちゃいました……ですけど、妹さん? はともかく、そっちのぬいぐるみさんは……」
「我はぬいぐるみではない。神獣だ」
何故か俺の頭の上に乗りながら偉そうに言う神獣くん。
いや、ちゃんなのか?
よくわからないが。
「ルルに続いてマスコット枠の追加だ」
「敬意が足りぬ」
ぽふぽふと頭を叩かれる。
全然痛くねえ。
神獣っていうか珍獣だ。
そんな様子を見ていた知佳が溜息をひとつついて、呆れまじりの声で言うのだった。
「とりあえず、説明求む」
かくかくしかじか。
ダンジョン内部であったことを説明している間に、ウェンディにミンシヤの妹――ミンリンの容態を細かく見てもらっておく。
医者に見せようかと思ったが、珍獣いわく「我の保護術にぬかりはない」とのことなのでとりあえずそれを信じることにする。
もちろん目を覚ました後に検査には行ってもらうが、今は他にもやることがあるのだ。
ミンリンを救出したからと言ってまだ全てが解決したわけではない。
珍獣の件も深く聞き出さなければならないし、中国政府がセイランたちと関わっているかもしれない件――ひいてはミンシヤたち姉妹の問題も解決できていない。
何故彼女たちの両親に呪いをかける必要があったのか。
珍獣の言っている運命とやらは関係あるのか。
つまるところ、セイランたち自身と――あるいはセイランたちが何かをしようとしていることと関係があるのか。
パズルのピースがそれぞれ少しずつ欠けているせいで全体図はほとんど見えていないが、全ては同じ幹から枝分かれしているだけのように思えてならない。
「本当に、有難うございます。皆様のお陰で、妹を生きて見つけることができて――」
「いいよ、気にすんな。まだまだ終わってないしな」
一通りの話をし終えた後、ミンシヤはそう言って俺たちに頭を下げた。
が、気恥ずかしいので途中で言葉を遮っておく。
「……いえ、この恩は僕の一生をかけてでも、必ず」
お、重い。
いやまあ、身内を助けてもらったというのはそれほどに重い事ではあるのだが。
俺も知佳の両親には頭を下げても下げても足りないしな。
マントルくらいまでめり込んでも足りないかもってくらい。
「××、××××」
今度は珍獣の方を向いて、中国語と思われる言語で何かを言った後に頭を下げた。
「我は神の指示に従ったまで。運命を守り、導くのみ。礼を言われねばならないような意志は介在していない」
「なに二人してツンデレみたいなこと言ってんのよ」
「お前に言われたくねいでっ」
俺のツッコミに対して氷の礫で返したスノウは、改めて俺の頭に乗る珍獣と目を合わせる。
「で、あんたは一体なんなの。神ってのは何」
「……不遜な娘だな。神とは神そのものだ。この世界を治める神のことである」
「この世界を治める神がなんで直接来ないで犬だか馬だかを送ってきてるのよ。セイランって馬鹿が好き放題やってるの知らないわけ?」
「個体名について我は知らぬ。だが、他の世界含めこの世界にも悪影響を及ぼそうとしている者がいることは聞いている」
スノウお得意の相手の器を測るような初対面喧嘩腰ムーブに怖気づくことなく珍獣は返す。
「……その対処にやってきたってこと?」
「それはわからん。ただ、我は運命を守れという指令を貰っただけである。だから我はお前たちを守る。それだけだ」
「大量の強い運命が消えるっていうのはつまりあたし達が死ぬかもってこと?」
「断言はできぬが、恐らくは」
「ふーん……」
スノウが聞くところによると、どうやらこの珍獣は神とやらからはほとんど何も聞いておらず、しかしセイランたちに抵抗する為に遣わされていることには間違いない。
と、言ったところか。
「で、なんで運命を感じないって言ってた悠真の頭に乗ってんのよ」
「この男が中心であることを感じたからである」
ぺしぺしと俺のつむじを叩く珍獣。
振り落としたろうか。
「我を除く、この場にいる全員がこの男を中心として運命の糸を伸ばしている。この男自身には全くもって運命の力を感じないが――」
ぺし、と再びつむじを叩かれる。
「この男が鍵であることは間違いない。我はそう判断した」
「……悠真が中心?」
スノウは俺を見て、周りを見る。
……スノウたち姉妹やシエル、知佳や綾乃はともかくとしてティナやミンシヤ、鈴鈴もそうなのか?
「本来なら一年以上前に尽きているはずの命が何故ここまで長生きし――強い運命力を惹き付けることになったのかというのも興味深い」
「……一年前?」
思わず俺が反応してしまう。
「うむ。貴様、一年前に死にかけているだろう」
貴様て。
最初はお前だったのに、格下げされてないか?
いや、貴様の本来の意味を考えれば上がっているとも言えなくはないが。
「心当たりは……幾つかあるな」
ダンジョンに落ちた時か、ロサンゼルスのダンジョンか。
どちらかと言えばダンジョンに落ちた時だろうな。
ロサンゼルスの時はウェンディが間に合っていたし。
だが落ちた時は――
一歩間違えれば即死していただろう。
「恐らくその心当たりの一番初めのものだろう。そこで本来、貴様は死んでいた。だが、生き延びた」
……てことは本当はあの時死んでたってことか?
いやまあ、確かに幾つもの幸運に恵まれて偶然生き延びただけではあるんだけど。
「……それで?」
「そこから先のことは知らん。我に運命を見通す力はないからな。だが、その強弱に関わらず運命の尽きは命運の尽きでもある。にも関わらず生き延び、その上で強い運命の中心にいる。興味深いだろう?」
「だろう? って言われても俺はよくわかんないけど……」
しかしこの場にいる全員が強い運命を持っているというのは確かに興味深い。
珍獣の言うことを信じるのなら俺の運命自体は消えているのに。
「お兄さまがいなければここにこのメンバーで集まっていることはないでしょうから、シンプルにそういうことなのでは?」
「それを確認するのも我の仕事だ。強い運命を守るのが最優先事項ではあるがな」
シトリーがパチン、と手を打った。
「とりあえず、一旦戻りましょうか。ぬいちゃんの処遇はそこで決めましょ?」
「……ぬいちゃん? 処遇?」
頭の上で怪訝な声を出す珍獣もといぬいちゃん。
まあ、悪いようにはされないだろうから頑張って自己プロデュースしてくれ。
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